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2003年からの読書日記

やがて海へと届く作者: 彩瀬まる出版社/メーカー: 講談社発売日: 2016/02/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (11件) を見る

地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。
そして、そのまま行方がわからなくなった――(本文より)

すみれが消息を絶ったあの日から三年。
真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。
彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが――。
【死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語】


彩瀬さんのルポ『暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出』を今年3月に読んで衝撃を受けましたが、この小説もとても心に響きました。
震災について書かれたと聞くと、重苦しい気持ちが先に立ってしまってしんどくなりますが、最後まで読んでよかった!
「喪失と再生の物語」本当にそうだと思いました。

地震の日から消息を絶った(亡くなっているであろう)すみれの章と真奈の章が交互に綴られていきます。
現実を生きている真奈と違ってすみれの章はふわふわした不思議な感じや少し怖い部分もあり、緊張しつつ読み進めていきました。


これは小説ですが、東日本大震災で真奈とすみれのような別れをすることになった多くの人達がいたはず。
家族、友人、恋人など大切な人を突然の別れで失い深く傷ついた心は何年経ってもそう簡単には癒されないのかもしれません。


真奈と女子高生二人が交わした会話が特に印象に残っています。
教訓は大事だけど、忘れない!と力んで言うこととは違うというのにはハッとさせられました。


真奈と国木田さんの関係も素敵だなと思いました。
忘れることは悪いことじゃない・・・なんだか涙が出そうでした。
ラストは読者まで浄化され生きていることを祝福されているような気がして温かい気持ちになりました。


生きるって楽しいことばかりじゃないけれど、自分の寿命を最後まで生き切りたいと強く思いました。
私が死んだ時、残された家族や友人がいつまでも悲しみに沈んでいるよりも(たまには思い出してくれるとうれしい)自分の人生を精一杯生きて幸せでいてほしいと願っています。