はぴの本棚

2003年からの読書日記

物語ること、生きること作者: 上橋菜穂子,瀧晴巳出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/10/16メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る

大好きなことを仕事に出来たら、どんなにいいだろう。
 みなさんの中にも、そんな憧れを抱いている人がきっといると思います。
 私も、そんなひとりでした。
 子どもの頃から、たくさんの物語を夢中で読んできました。
いつかこんな物語を、自分でも描けるようになりたい。
どうしたらそれが出来るようになるのかもわからないまま、手探りで道を探していたのです。(本文「はじめに」より)

 物語は、いずこから生まれるのか。
獣の奏者』、「守り人」シリーズなど、ベストセラーを生みつづける作家・上橋菜穂子が、原体験となった祖母の昔話から、自作の誕生秘話までを語る。
読むことの喜び、書くことの喜び、そして生きることの喜びを教えてくれる一冊。


大好きな上橋菜穂子さんのエッセイ!
だいぶ前に購入していたんですが、ゆっくり読める時期を狙って・・・じっくり味わうことができました。

今年国際アンデルセン賞(作家賞)を受賞された上橋さん。
この賞は児童文学のノーベル賞と称され、日本人ではまど・みちおさん以来の快挙とのこと。
日本だけでなく世界でも評価され、ますます注目されているのはファンとしてとてもうれしいです。

さて本書。
上橋さんが「魔法の手」とおっしゃる瀧晴巳さんが聞き取りをされた力も大きいんでしょうね。
とても読みやすい。
上橋さんの語る言葉に引き込まれるように読みました。
上橋さんの魅力が伝わってくる文章でとてもよかったです。

巻末のブックリスト「上橋菜穂子が読んだ本」「上橋菜穂子が書いた本」もうれしい心遣い。

2008年に参加した講演会でもお祖母さんのことを語っていて印象に残っていますが、本にもしっかり書かれていました。
お祖母さんの昔話の影響が大きく、人と獣の距離が近い物語を書くことになったのはそれにルーツがありそうだと書かれていました。

バルサが刀剣ではなく短槍を持つ理由も納得。
本当の自由について語っているところや「一言主」が増えたということには同感。


物語がひらめくときの光景を表したところはとても印象的で素敵でした。


>それは繭玉を一個与えられたようなもので、私は、それを解きほぐすようにして物語を書いてきたのです。



他にも心に響いた文章をあげておきます。


>〜本物のファンタジーは、日常よりもっと深いところで、もっと生々しい実感につながる瞬間があるような気がします。


>永遠と刹那。私が描く物語にも、必ずそのふたつの時間軸があります。
〜人の命ははかない。そして、私が死んだあとも変わらずに続いていく世界がある。私が、人の営みと同時に、それを俯瞰する大きな時の流れを描かずにいられないのは、そのせいかもしれません。


上橋さんの好きな物語の共通点

>背景の異なる者同士がいかにして境界線を越えていくかを描いているところかもしれません。


サトクリフの物語『第九軍団のワシ』を挙げて語っていましたが、とても魅力的な物語だと思いました。
以前から気になっていたけれど難解な印象があり、これまで手が出なかったサトクリフ作品。
今度こそ挑戦してみたいです。


グリーン・ノウシリーズの著者であるボストン夫人にもお会いしたことがあるというのは驚きました。


大きな手で上橋さんの手を包みこむように握って言ってくれた言葉が素敵。


>「大人になって、いろいろなことがあっても、あなたがその夢を強く持ちつづけているのなら、あなたはきっと作家になれます」


きっと上橋さんはこの言葉に大きな力をもらったんだと思います。
私まで励まされたような気がしました。


そして『ホビットの冒険』のホビットのビルボに自分が似ていると語ります。

ビルボが指輪を探す旅に出かけるために自分を奮い立たせたように、上橋さんも何度も自分の声に背中を押されて一歩を踏み出したとのこと。
ここを読んだ時、なぜか涙が出てしまいました。


>「靴ふきマットの上でもそもそしているな!」

この言葉はとてもユニークでいいなと思います。
これから一歩を踏み出す時、思い出す言葉になるかもしれません。


>ー物語は、私そのものですから。

文化人類学と作家、上橋さんにとってはどちらもなくてはならないものなんですね。

書かずにいられなかったという上橋さん。
色々なことを乗り越えて書き続けてくれて本当にありがとうございました。

近々出版される『鹿の王』が読めるのも楽しみです。
日本語ですぐに新作を追いかけていけることに幸せを感じます。
これからも素敵な物語を私達に届けてほしいです。