はぴの本棚

2003年からの読書日記

夜と霧 新版作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2002/11/06メディア: 単行本購入: 48人 クリック: 398回この商品を含むブログ (369件) を見る

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長い間読みたいと思っていた作品です。

原著の初版は1947年、日本語版の初版は1956年。
この新版は1977年に出た改訂版で、日本語訳は2002年に出版されたとのことです。


ページ数はそんなに多くないけれど、事実の重さに圧倒されページをめくるのも自然とゆっくりに。
噛みしめるように少しずつ読みました。


強制収容所体験記ということで読み始めるのに勇気がいりました。
驚いたのは、とても冷静な語り口で一歩引いた立場から書かれていたこと。
著者が心理学者なのもあるかもしれませんが、解放されてけっこう早い時期に書かれたものなのにそう感じられないのはすごいと思いました。


表紙の絵の番号「119104」はは強制収容所で著者に割り振られた番号だったんですね。
それまでの生活から一変、裸にされて全身の毛を剃られ、ただの数字として呼ばれる存在になってしまう恐怖。
劣悪な環境の中、生死を分ける決断が何度もあり、生き延びるために感情の消滅や鈍磨があったこと。
現実に比べたら悪夢の方がまだましという文章もあり、想像するだけで辛かったです。
ユダヤ人という言葉は2か所しか出てきませんが、数多くの人達が言葉に尽くせないほどの苦しみを味わってこられたのでしょう。


解放されてもうれしい感情がなかなか表れてこないという文章には、これまでの壮絶な体験がいかに重く辛いものだったのかということが強く感じられるような気がしました。
極度の精神的緊張から解放されて自由になったはずなのに精神の健康を損ねる人が多かったということも傷の深さが想像できます。




印象に残った文章がたくさんありました。


>人は、この世にもはやなにも残されていなくても、心の奥底で愛する人の面影に思いをこらせば、ほんのいっときにせよ至福の境地になれるということを、わたしは理解したのだ。


>人間の内面は外的な運命より強靭なのだと〜


>人間はどこにいても運命と対峙させられ、ただもう苦しいという状況から精神的になにかをなしとげるかどうか、という決断を迫られるのだ。


>人間が生きることには、つねに、どんな状況でも、意味がある、この存在することの無限の意味は苦しむことと死ぬことを、苦と死をもふくむのだ、とわたしは語った。


太陽が沈む様子に心奪われた被収容者達の様子を描いた文章と言葉「世界はどうしてこんなに美しいんだ!」には涙が出そうになりました。



ユーモアを持つこと、自然への畏怖の心、自分を見失わないこと、未来を信じる気持ち・・・
これは強制収容所という極限の環境に置かれなくても大切なことだと思います。
「病は気から」という言葉がありますが、心の健康を失うと体ももたないという例がいくつも書かれていました。


自分を見失わないための魂の武器、心に盾をいかにたくさん持つことができるか、それが生死の境目になるんですね。
深く心に留めておきたいと思います。


気合のいる読書でしたが、今回読めて本当によかったです。
機会を見つけて旧訳も読んでみたいと思います。
著者が触れていたドストエフスキートーマス・マンの『魔の山』も読んでみたくなりました。


これからもずっと読み継がれていくべき作品だと思います。
もっともっとたくさんの人に読んでほしいです。