聖夜 ― School and Music作者: 佐藤多佳子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/12/09メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 49回この商品を含むブログ (29件) を見る
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先日読んだ『第二音楽室』と同じシリーズ。
長編が好きというのもあるんだけれど、こちらの方がより印象に残りました。
出版社の内容紹介です。
『第二音楽室』に続く“School and Music”シリーズはオルガン部が舞台。
ものごころつく前から教会の鍵盤に親しんだ鳴海は、幼い自分を捨てた母への複雑な感情と聖職者としての矩(のり)を決してこえない父への苛立ちから、屈折した日々を送ります。
聖書に噛み付き、ロックに心奪われ、難解なメシアンの楽曲と格闘しながら、高3の夏が過ぎ、そして聖夜。
瑞々しく濃密な少年期の終わり。
闇と光が入り混じるようなメシアンの音の中で鳴海がみた世界とは。
舞台は1980年。
自分よりちょっと上の世代の物語なので時代を想像しながら読みました。
母への複雑な思い、父への反発、自分への苛立ち・・・色々な感情が渦巻く一哉。
母に裏切られたという思いから人への信頼も失って知らず知らずのうちに深いかかわりを避けてきたんでしょうね。
そんな一哉も天野や深井との出会いから少しずつ変わっていきます。
悩みながらも人とつながる喜びを感じていく様子に胸が熱くなりました。
自分とは違う他人との付き合いっていいことばかりじゃないし、時に傷ついたり煩わしかったりします。
でもやっぱり人とつながる喜びって一人では得られない感情も経験できる大切なもの。
>音楽は記憶をなまなましく再現する。それは、映像的なものより、むしろ、感情的な領域だ。その音楽にかかわっていた時、弾いていたり聴いていたりした時に感じていたこと―心の中身―喜びや悲しみや悩みや揺らぎやあらゆるものを濃く細かくそのままに思い出す。
これは合唱をしたり、音楽を聴いた時によく感じていたことでした。
こういう漠然とした気持ちだったり思いだったりするものを的確に言葉にしてくれたこと、とてもうれしかったです。
佐藤さんの母校である青山学院にはオルガン部が実在するとのこと。
物語と全く同じではないでしょうが、なんだかオルガン部のメンバーがうらやましくなってしまいました。
ピアノもオルガンも実家にあったので(オルガンは壊れてしまって今はないんですが)少しは知識がありラッキーだったのかも。
子どもの頃遊んでいたオルガンは指で強弱をつけられるピアノに比べて弾き応えがないと単純に思っていたんですが、どっこい奥が深い楽器なんですね。
右手、左手、足の3パートを上手に使い分けるのって混乱しそうです。
色と音が共にある共感覚のことも初めて知りました。
かなり大変そうですが、一瞬だけ能力を借りて世界がどんな風に感じられるのか覗いてみたい気もします。
楽しみなのはあと2つ残っているというアイデア。
いつか形になるのを首を長くして待ちたいと思います。