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2003年からの読書日記

富士日記〈下〉 (中公文庫)作者: 武田百合子出版社/メーカー: 中央公論社発売日: 1997/06/18メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 14回この商品を含むブログ (66件) を見る

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去年の11月から時間をかけてゆっくり少しずつ読んでいた『富士日記』とうとう読み終わってしまいました。
長年、読みたいと思って手が出なかったこの作品を今回手に取ることができて本当によかった!
購入して手元に置いておきたくなりました。



昭和44年7月〜昭和51年9月までの日記。

中巻で亡くなった愛犬ポコに代わり昭和45年12月に猫のタマが家族に仲間入り。
日記にもたびたび登場し、読んでいて和みました。


終戦の時期に合わせて連日読んでいた『黒い雨』はいつか挑戦してみたくなりました。



基本的には淡々と描かれている日記ですが、夫の泰淳氏が病気になった後半は入院などで一時中断されたりして大変な時期だったのが想像できます。
山での暮らしも夏限定になり、庭は畑をやめて花だけにするなど生活も少しずつ変化していきます。



>「生きているということが体には毒なんだからなあ」

という泰淳さんの言葉はとても印象的。



そして看病をしている百合子さんの言葉も強烈な印象を残します。


>年々体のよわってゆく人のそばで、沢山食べ、沢山しゃべり、大きな声で笑い、庭を駆け上り駆け下り、気分の照り降りをそのままに暮らしていた丈夫な私は、なんて粗野で鈍感な女だったろう。




>来年、変らずに元気でここに来ているだろうか。昭和51年8月

>来年も二人とも元気で山にきたい。昭和51年9月



読者は泰淳さんがこの後に亡くなるのを知っていて読んでいるのですが・・・やっぱり辛い。
最後の方はちょっとした描写にも祈りがにじんでいるように感じられてとても切なくなりました。



上・中・下巻を読んで改めて感じたこと、やっぱりただの日記とは違う。
あちこちにハッとする表現、感性のきらめきが感じられる文章でした。
もちろん作家である泰淳さんの影響はあったのかもしれないけれど、百合子さんご自身が天性の才能を持っていたんでしょうね。
この日記が世に出たこと、ご夫婦の死後現在まで多くの人々に読み継がれていくことは素敵なことだと思いました。


著者の他の作品や泰淳さんの小説、娘の花子さん(武田花さん)の写真集やエッセイもぜひ読んでみたいです。