はぴの本棚

2003年からの読書日記

岸辺の旅作者: 湯本香樹実出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/02メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 22回この商品を含むブログ (19件) を見る

三年間失踪中の夫がある夜ふいに帰ってくる。
ただしその身は遠い水底で蟹に喰われたという。
妻は、彼とともに死後の軌跡をさかのぼる旅に出る。
彼岸と此岸をたゆたいつつ、
永久に失われたものへなお手を差し延べる
愛のつよさがあまりに切なく、心が震えます。
(帯より)


今回は夫婦の物語で子どもが主人公ではないけれど、生と死について考えさせられる部分はこれまでの児童書と同じ。
湯本さんらしい作品でした。


3年ぶりに目の前に現れた夫が既に死んでいるなんて!
優介は病気だったとはいえ不倫もしていたというだけでも許せないのに、いきなり現れたと思ったら旅に連れ出す身勝手さに最初は全く感情移入できず・・・
すんなりついていく瑞希にも共感できなかったのですが、(でも自分が同じ立場だったらやっぱりついていくかな)読んでいるうちに気持ちが変わってきました。


瑞希に会いに来たのはやっぱり優介なりの愛だったんでしょうね。



死者って私達と全く違う存在だと思い込んでいるけれど、そうじゃないのかも。
見えたり、触れることができ、食事もし、髭も伸びる、自分が死んだことに気づかない人もいる・・・
物語の中の死者達はほとんど生者と変わらないような気がします。
死者と生者の違いってなんだろう?と読みながらずっと考えていました。



>「・・・・・・知っているつもりで知らないことってあるもんだな」


>知らないのに知ってるつもりになってた。


夫のこと、子どものこと、友人・・・私はこれまで出会ってきた他者のことをどれだけ知っているんだろう?
逆に他者から私はどう見られているんだろう?


これは夫婦の物語でしたが、人って夫婦に限らず自分は相手を知っている気になっているんでしょうね。
知っていると思っている部分は表に出ているほんの一部なんだと痛感させられました。



>死者は断絶している、生者が断絶しているように。死者は繋がっている、生者と。生者が死者と繋がっているように」


生者と死者は断絶していると思いがちだけれど本当はそうじゃないのかもしれない。
まだ死んだことがないのであの世のことは分からないけれど、過度に怖がる必要もないのかなと思いました。


ラストはやはり予想できたことで寂しくなってしまったけれど、瑞希はふたりぶんの荷物を持って生きていくんでしょうね。
読み終わってから表紙の写真をじっくり眺めて余韻に浸っています。


この小説もよかったけれど、次はやっぱり湯本さんの児童書が読みたいなぁ〜。