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2003年からの読書日記

津軽 (岩波文庫)作者: 太宰治出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2004/08/19メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 16回この商品を含むブログ (20件) を見る

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SNSの今月の課題本ということで挑戦してみました。
太宰治作品は教科書で『走れメロス』を習った時に読んだくらいで、有名なのに読んでいない作家の一人でした。
本書はタイトルさえも知りませんでした。


説明は岩波文庫の解説を引用させてもらいます。
「私は津軽に生れ、津軽に育ちながら、今日まで、ほどんど津軽の土地を知っていなかった」。
戦時下の1944年5月、太宰治は3週間かけて初めて津軽地方を一周。
郷里の風土や歴史、自らにも流れる津軽人気質に驚嘆、慨嘆、感嘆の旅は、やがてその秘められた目的地へと向かう。ユーモアに満ちたふるさと再発見の書。


戦争中なのに本書はそれをほとんど感じさせず、のんびりした雰囲気が伝わってきます。
戦争の影が少し見えるのは地形の説明のところで、「国防上たいせつな箇所」と書かれているくらいです。
また旅行用の衣服が紫に変色していたりして物資が乏しいのは少し伝わってきますが、酒好きな太宰や友人はあちこちで酒を集めて飲んだりするし、運動会が普通に行われていたりするのは不思議な感じでした。


歴史や過去の資料の紹介など読みにくく難しい部分もありましたが、ちょっと昔の津軽をあちこち巡っている気分になって楽しめました。
青森県にはまだ行った事がないのでそれもあるのかもしれません。

また文章の中に「しちゃった」「やっちゃった」という言葉が登場します。
著者のお茶目な部分が垣間見えた感じがしておかしかったです。
堅苦しい作品だと最初は構えて読んでいたので一気に肩の力が抜けました。


とても面白かったのは津軽人気質。
友人Sさんの熱狂的な接待ぶりは、本当にそんな感じだったのだろうと思えるほど、その場面が目に見えるようでした。

>ふだんは人一倍はにかみやの、神経の繊細な人らしい

とあったように、来客があるとかなり舞い上がってしまい、やりすぎてしまう部分があるんでしょうね。
太宰も愛情表現と書いていましたが、きっとそうなんだろうと思いました。


太宰の生家はかなりの豪邸なのも今回初めて知ったし、父が14歳で亡くなっていたことや、兄に頭が上がらない様子なども(過去の事件などで勘当に近い扱いを受けていたことがあったようです)興味深く読めました。
志賀直哉への批判ともとれる部分があり、彼の作品も読んでみたいと思ったし、時々挙げられていた松尾芭蕉も学校で習ったきりなのでまた手に取ってみたくなりました。


そして後半、長らく会っていなかった育ての親の越野たけと今回約30年ぶりに再会する場面があるんですが、とても素敵で感激してしまいました。

しかし!気持ちのよい読後感で読み終えたのに、解説を読むとうまく騙されたような気分に・・・
小説ではなく紀行文のつもりで読んでいたからでしょうか?
結局、太宰の創作が素晴らしいということになるのかな。


今回、自分なら絶対読もうとしなかった本を手に取る機会ができてとてもよかったです。
太宰作品、少しずつ読んでいきたい気持ちがムクムク沸いてきました。