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2003年からの読書日記

帰還―ゲド戦記最後の書 (ゲド戦記 (最後の書))作者: アーシュラ・K・ル=グウィン,マーガレット・チョドス=アーヴィン,Ursula K. Le Guin,清水真砂子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1993/03/25メディア: 単行本 クリック: 22回この商品を含むブログ (44件) を見る

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シリーズ4巻目。
前巻『さいはての島へ』が出版されてから16年経って出た本書。
発売からずっと追いかけてきたファンにとっては待ち遠しかったでしょうね。
私は完結している今連続して読めるのでとてもありがたいなと思います。

この巻は女性についてすごく考えさせられる物語でした。
自分が女性だから分かった部分もあるし、まだまだ難しい部分もあるけれど大人になった今出合えてよかったと思います。


物語では時間がほとんど経っていないのですが(ロークからゴントへゲドが竜に乗せられて飛んでいるひととき)『こわれた腕環』で少女だったテナーが中年女性になって再登場したので時間の流れを感じてしまいました。
腕輪を取り戻した後、オジオンのところに弟子入りしていたテナー。
でも魔法使いになることより、普通の女性としての人生を歩む選択をします。
結婚し、子を生み、子育てもひと段落(夫とは死別)して人生の後半を迎えています。

そんな時、テナーはゲドと再開します。
自分をかつて闇の世界から救ってくれた憧れの存在だったゲド・・・
でも今は魔法の力を失い、ぬけがらのような状態になっていることにショックを受けてしまいます。
そんな様子のゲドに嫌気がさしたり、いらだつテナーですが前回の戦いを読んだばかりなので、ゲドの辛さにも共感する自分がいました。


男性と女性の魔法使いの力の違いについて、その力の質について(これらは魔法に限らず当てはまるような気もしました)テナーとコケばばとの会話は色々考えさせられました。

>「男は出して、女はとり入れます。」

「わしらのは、ごく小さな力で、男たちのにくらべれば、やっぱり劣っていると思いますよ。」

「ただ、女の力は地中深く根をはります。クロイチゴのやぶみたいに。一方男の魔法使いの力はモミの木みたいに、上に上に大きく、高く、堂々と伸びていきますが、嵐がくれば倒れてしまいます。でも、クロイチゴのやぶはなにをもってしても根だやしにはできません。」



最初からない力なら気にならないのかもしれない、でも当たり前のように持っていた力を失うことはやっぱり辛いんでしょうね。
魔法の力を失ったゲドですが、テナーの危機を救い、またテナーの存在が結果的にゲドを救うことになったのもよかったです。



そしてもう一人の重要人物が大人達の悪意で傷つけられた少女テルー。
あまりにもひどいやけどを負い、顔と頭の右半分と右手は骨にまで達していて手の施しようがない状態。
なんとか命を取り留めたテルーを引き取ったテナーは懸命に育てていきます。
でも傷つけられ自分の殻に閉じこもってしまった人を癒すのは想像以上に困難で難しいこと、特に心の傷はそうだと思います。

>「それにひきかえ、いったん奪われたものをとりもどすことのなんとむずかしいこと!」

少しずつ癒されていたテルーがある出来事でまた元に戻りそうになった時のテナーの言葉です。
信頼が失われたのかもと心配したり、自分の対応がこれでよかったのかと悩んだり・・・なんだかそのまま子育てにつながるような気がしました。

でもテナーの愛情やテルーを大切に思う気持ちはたしかに伝わっていたと思います。
やっぱり愛情ある積み重ねは無駄じゃなかったんですね。

最後にテルーの驚くような活躍もあり、あと2冊読むのが楽しみになりました。