はぴの本棚

2003年からの読書日記

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐作者: 上橋菜穂子出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2014/09/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (51件) を見る鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐作者: 上橋菜穂子出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2014/09/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (46件) を見る

命をつなげ。愛しい人を守れ。未曾有の危機に立ち向かう父と子の物語。
強大な帝国にのまれていく故郷を守るため、死を求め戦う戦士団<独角>。
その頭であったヴァンは、奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。
ある夜、ひと群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。
その隙に逃げ出したヴァンは幼い少女を拾う。
一方、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、
医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。
ヴァンとホッサル。
ふたりの運命が交叉するとき、見たこともない世界が眼前に現れる。
厳しい世界の中で、暖かく他者を支えながら生きる人々の、激しくも美しい物語が、いまはじまる――。

上橋菜穂子さん待望の新作。
楽しみにしていました。
最初に登場人物の紹介ページがあるのですが、けっこう多め。
慣れていない人はちょっと嫌になるかもしれません。
私はファンタジー好きだし、これまで読んできた上橋作品への絶対的な信頼があるから、物語の世界にすっと入ることができました。

ヴァンの章、ホッサルの章、どちらも気になる気になる(笑)
二人の主人公を追いかけて熱中してしまいました。

期待していた通りの面白さは下巻に入ってからますます加速。
最後まで緊張しながら読み進めました。
ファンとしては上下巻でなくもっと長く続くシリーズでもよかった・・・と思うくらい。
読み終わってからあまり時間が経っていないのにもう再読したい気分になっています。



心に残る文章がたくさんありました。
国と国、民族と民族、人と人、人と動物、色々な関係を考えながら読みました。


>人は、自分の身体の内側をみることはできない。健やかなときは心が身体を動かしているような気がしているが、病めば、身体は、心など無視して動く。それを経験して初めて気づくのだ。―身体と心は別のものなのだと。


>自分の身体の中で、いま、このときも、目に見えぬ小さな何かが、病と戦っている。そうやって、自分の命を支えてくれている。−そう思うと、何か途方もないものが、我が身をとりまいているような気分になった。

>「私たちは、ひとりひとり、違うのよ。たしかに祖先から綿々と伝わってきたものはある。でもね、ひとりひとり、まったく違うの。どの命も、これまでこの世に生まれたことのない、ただひとつの、一回きりの個性をもった命なのよ」


>「私たちはみな、ただひとつの個性なんです。この身体もこの顔も、この心も、一回だけ、この世に現れて、やがて消えていくものなんですよ」


人の身体は森みたいなのもの、国みたいなものという文章が何度か出てきましたが、言われてみれば納得。
自分が生かされている不思議を改めて感じました。
死は終わりではなく、身体の死は変化でしかないような気がするという言葉にも共感しました。

あきらめないで生きることの大切さ、国や民族の違いを超えてつながることは可能ではないかと思える結末でした。
辛い気持ちも残りましたが、希望が見えてホッとしました。

穏やかな気持ちで本を閉じることができました。

あとがきもよかったです。