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2003年からの読書日記

海うそ作者: 梨木香歩出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2014/04/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (24件) を見る

昭和の初め,南九州の離島(遅島)に,人文地理学の研究者,秋野が調査にやって来た。
かつて修験道の霊山があった,山がちで,雪すら降るその島は,自然が豊かで変化に富み,彼は惹きつけられて行く。
50年後,不思議な縁に導かれ,秋野は再び島を訪れる──。
歩き続けること,見つめ続けることによってしか,姿を現さない真実がある。
著者渾身の書き下ろし小説。

久々の梨木作品。
タイトルの「海うそ」って何だろう?と思いながら読み始めましたが、とてもよかったです。
昭和の初めだから『家守綺譚』『冬虫夏草』よりは少し後の時代になるのでしょうか。
どちらも自然豊かな土地が舞台なので、似ている雰囲気も感じました。


許嫁と両親を相次いで亡くし、喪失の思いを抱えていた秋野。
彼が遅島に惹かれた気持ちがなんとなく分かる気がしました。
見返しに地図があるので、物語を読み進めながら秋野の辿った道のりを追いかけて楽しむことができました。


衝撃を感じたのは一気に50年後になるところ。
戦前から戦後になったのもあるけれど、若い青年だった秋野が80歳を超えた老人になっていて自分が浦島太郎になった気分。


ある程度は予想していたことだけど、山根氏も岩本さんも、梶井君も亡くなっていてショックでした。
50年前とは変わってしまった遅島、かつてあった建物、存在していた人々も今はもういないんですね。


かつてあったものがなくなってしまうこと、親しくしていた人達ともう会えないこと・・・喪失。
時代が進むにつれて変化は仕方ないと分かっているつもりだし、いつか人が死ぬことも避けられないことなんだけど、なんて寂しいんだろうと思いました。


そんな気持ちで読み進めていましたが、老人になった秋野の語る言葉にハッとしました。


>喪失とは、私のなかに降り積もる時間が、増えていくことなのだった。


今の私には正直まだ理解できないです。
これからもっともっと年齢を重ねたら秋野のように静かにこう思えるようになるのでしょうか?
じっくり再読したい作品になりました。


印象に残った文章を挙げておきます。


>ひとは皆、気づけば生まれているのだ。事前に何の相談もなく、また、生まれる場所育つ場所の選定もかなわず。自分だけではない。父母も祖父母も曾祖父母も、生まれるに際しての選ぶ自由なくここに生まれ落ちた。〜


>空は底知れぬほど青く、山々は緑濃く、雲は白い。そのことが、こんなにも胸つぶるほどにつらい。