はぴの本棚

2003年からの読書日記

昼田とハッコウ作者: 山崎ナオコーラ出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/09/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る

それでも本屋は続いていく。家業の「アロワナ書店」で、三代目のハッコウと、いとこの昼田がとりくむ「町の本屋さん」のお仕事。若者に人気の町・幸福寺にある本屋さん「アロワナ書店」。地域密着型のこの書店で、三代目・ハッコウは名ばかりの店長となった。その頃、ハッコウのいとこの昼田は、六本木ヒルズのIT企業に勤めていた。店内でぶらぶらするだけのハッコウと、店から距離をおいて会社勤めをする昼田だったが、書店の危機に際し、二人でゆっくり立ち上がる。


山崎ナオコーラさん。
かなり分厚い本だったんですが、大きな事件や盛り上がりがあるというのでもないふわっとした雰囲気がずっと続いて終わった感じです。
人が亡くなったり、家族が急に現れたりなどびっくりするようなこともいくつかあるんですが、淡々としているのが不思議。
著者の作品はだいたいこういう感じなのかな?
ゆるゆるとしているけれど、飽きずに読み進められる文章って実はすごいのかもと感じました。
ちょっと追いかけてみたくなりました。


以前パートで書店に勤めていたので仕事のあれこれを思い出しながら懐かしく読みました。
POPは私もポップと言っていたけれど、point of purchaseの略でピーオーピーと呼ぶのが正式名称だったとは・・・知らなかった。


昔ながらの町の本屋さんって今どのくらい残っているんだろう?とふと思いました。
便利で早いネット書店を利用することも多くなっているし、買い物をする本屋さんはどこもチェーン店ばかりです。
身近に町の本屋さんが見当たらなくなってしまいました。

また電子書籍がもっと普及してくると紙の本はなくなる?いや紙も残って電子と共存していくのかな?
私たちは変化の時代に生きているんだなと改めて感じました。


心に残った文章。

>巾着をすっとすぼめるような小説が好きだ。


>死はおそらく、本を閉じるときにも似ている。


>人間の脳には、忘れるという機能がないらしい。新しい情報が入ると、昔の思い出が後ろに押しやられて、思い出しにくくなる、というだけのことだという。一回記憶されたものは死ぬまで残るのだ。記憶を取り出しにくくなっても、それは引き出しが開きにくくなっただけのことで、中にはちゃんと入っている。


>自分の本が売れればいいというのではなく、この世界を、いろいろな人の書いた本が売れるような世界に変えていく、ということも作家の仕事なのかもしれない。


>お客さんが探している本を、自分が見つけられたときは、腹が温かくなる。自分の職業に自信が持てる感覚というか、人と物との橋渡しができた充実感というか、そういうのが丹田に湧く。


>「リアル書店は、会社帰りにぷらっと一周するだけで、自分の志向するタイプの本以外の本が自然と目に入ってくる、本に詳しい人が決して自分では選ばなそうな自分好みの本をそれとなく教えてくれる、っていう良さがあって、そこがオンライン書店とは違う、リアル書店の良さなんですよ」



東日本大震災のことも物語の中に出てきます。
非常時には本屋は最優先ではないけれど、震災後もアロワナ書店のシャッターを上げ続けることの大切さ。

>お店が開いていることが日常に近づけることに一役買っているように見える

というのは本当にそうだなと思いました。


読みたくなった絵本。
ラッセル・ホーバン「フランシス」シリーズ。
イシュトバン・パンニャイ『アザー・サイド』(文字のない絵本)
ガブリエル・バンサンのくまのアーネストおじさんシリーズ。