神様のカルテ作者: 夏川草介出版社/メーカー: 小学館発売日: 2009/08/27メディア: 単行本購入: 20人 クリック: 365回この商品を含むブログ (208件) を見る
★★★★
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映画化もされた話題の作品ということで図書館でかなり長く待ちました。
期待通りよかったです。
ネタバレ少し含みますので未読の方は注意してくださいね。
主人公の栗原一止は本庄病院に勤務する5年目の内科医。
夏目漱石を愛読し、言葉遣いまで時代錯誤のちょっと風変わりな医師です。
内容は全く違うけれど以前読んだ『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦著に少し雰囲気が似てるようにも思いました。
一緒に勤務する先輩医師その他登場人物にあだ名をこっそりつけて(心の中で)呼んでいるのが面白く、つい笑ってしまいそうになりました。
そんな部分もありつつ、描かれている現実はけっこうシビアだったりします。
一止の勤務する病院は24時間365日対応という理念をかかげていますが、医師不足はかなり深刻。
睡眠も足りずギリギリの状態で過酷な労働を強いられている様子が文章のあちこちで感じられました。
現実の病院の大半もきっとそうなんでしょうね。
著者が現役の医師ということで特にリアルに感じられました。
前から散々言われていることだけど、彼らの待遇や休日の確保をもっとなんとかできないものでしょうか?
一止を支える周りの人々がとてもいいです。
友人でもある砂山医師、先輩のベテラン医師大狸先生、古狐先生、看護師の東西さん、御嶽荘の住人達など。
中でも疲れた一止を優しく癒してくれる存在の奥さんハルは魅力的でした。
まだ新婚さんなのに老夫婦のような(笑)自然とお互いを思いやることのできるさわやかな二人だと思いました。
「人には向き不向きがあり、ひとりで全部できる必要はない」という言葉は本当にそう。
大学病院の最先端の医療から一般医療についての話でしたが、これは医師だけでなくどんな仕事でも同じだと思います。
なんだか自分まで励ましてもらえた気がします。
助からない人(寝たきりの高齢者や癌末期患者)に行う医療についても考えさせられました。
>命の意味を考えもせず、ただ感情的に「全ての治療を」と叫ぶのはエゴである。そう叫ぶ心に同情の余地はある。しかしエゴなのである。患者本人の意思など存在せず、ただ家族や医療者たちの勝手なエゴだけが存在する。誰もがこのエゴを持っている。
自分が患者の子、妻、親など身近な家族だったらと考えると少しでも長く生きてほしいと思ってしまうだろうけれど、やっぱり本人の意思とは別なんですよね。
元気なうちに話をして自分や相手の意思を確認しておく必要はもちろんあるんですが、いざそうなった時は・・・と考えると気持ちが揺れ動いてしまうかも。
安曇さんの手紙には泣かされました。
>病むということは、とても孤独なことです。
という言葉の重さ。
その孤独を少しでも癒せるような温かい時間を作ってくれた医師や看護師への感謝の気持ちを読んで胸がいっぱいになりました。
私も最期の時は感謝の気持ちで旅立ちたいと改めて感じました。
医師や看護師は患者を支えるのが仕事だけれど、逆に患者に支えられ力をもらっているという一止の言葉にもハッとしました。
一止という名前はとても珍しいなと思ったけれどその由来も分かって納得。
大学病院ももちろん大事、でも私達に身近な一般医療もないがしろにされてはいけない。
一止のような信念を持った医師達がいて日夜頑張ってくれていることに感謝です。
読了後、爽やかな風が吹き抜けたような素敵な物語でした。