はぴの本棚

2003年からの読書日記

月と蟹作者: 道尾秀介出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/09/14メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 174回この商品を含むブログ (76件) を見る

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第144回直木賞受賞作。
やっと図書館から回ってきました。


あらすじです。
小学生の慎一と春也は「ヤドカミ様」なる願い事遊びを考え出す。100円欲しい、いじめっ子をこらしめる――他愛ない儀式はいつしかより切実な願いへと変わり、子供たちのやり場のない「祈り」が周囲の大人に、そして彼ら自身に暗い刃を向ける……。注目度ナンバー1の著者による最新長篇小説。鎌倉の風や潮のにおいまで感じさせる瑞々しい筆致で描かれる、少年たちのひと夏が切なく胸に迫ります。


慎一の父は1年前に病気で亡くなり、祖父と母と三人で暮らしています。
漁船の事故で左足の下半分を失った祖父、何か隠している様子の母、学校での生き辛さなど慎一の暮らす世界は決して明るいものではありません。

>何も上手くいかない。何も思い通りにならない。自分ばかりが取り残される。


慎一も春也も、もしかしたら鳴海もそういう気持ちを持って日々を過ごしてきたのかも。
頑ななところや傷つきやすさ、もろさなどは思春期独特の気持ちなのかもしれないけれど、読んでいて苦しくなるほどでした。


鳴海が加わって友達関係に変化が出てきた後半部分も惹き込まれました。
破滅に向かって一気に突っ走っていくところは怖いくらいでしたが、なんとか踏みとどまれてよかった。
自分の姿を直視できてよかった。


慎一が何も言わなくても孫の変化に気づいた祖父の存在も大きかったのかなと思いました。
誰かが自分を気にかけていることを感じられるのはとても大事。


道尾さんの作品は『光媒の花』を読んだのみですが、独特の吸引力がある作家だと思います。
現実の重さや苦しさをきちんと描いているので決して明るく楽しい読書にはならないんですが、つい読み進めてしまうのは著者の筆力なんでしょうね。

救われない結末ではなく少しだけ光が見えるのも魅力なんだと思います。