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2003年からの読書日記

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)作者: 宮部みゆき出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/05/14メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 252回この商品を含むブログ (138件) を見る

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色々なジャンルの小説を書かれる宮部さんですが、私の好みはどちらかといえば時代もの。
数年ぶりに読む現代ものだったのでやや不安でしたが、面白かった!
やっぱり宮部さんは巧いなと思いました。



両親が購入したマイホームは元は写真館だったというかなり古い建物。
花菱家の長男高校生の英一はこの写真館が縁で持ち込まれた心霊写真の謎を解くはめになるのですが・・・


分厚い小説にたくさんの内容が盛り込まれていました。
青春小説としても楽しめるし、新興宗教フリースクール、自殺未遂、親族の不和、遺産相続のごたごたなど現代社会の問題についても考えさせられました。
こう書くとズシリと重い小説って感じがしますが、不思議と暗い印象はなかったです。
むしろ全体のトーンは明るく読み終わった後は爽やかであたたかい気持ちになりました。



家族からも「花ちゃん」と呼ばれている英一。
今時の高校生ではあるんですが、とてもいい子で好感が持てました。
8歳下の弟光(ピカちゃん)の賢くて繊細なところもなんともいえない魅力がありました。
一風変わった家族だと思いながら読んでいたけれど、その理由もだんだん分かってきました。


花菱一家以外の登場人物も皆個性豊か。
不動産の須藤社長、事務員の垣本順子、友人のテンコ、コゲパン、ヒロシなど魅力的で印象に残りました。



最後の章の「鉄路の春」がよかったです。


4歳で亡くなった妹の風子に対して家族それぞれが強い責任を感じている部分は読んでいて切なくなりました。
親族の心ない言葉は(親族だからこそ言えるのかもしれませんが)辛かったです。
残された方は多かれ少なかれ亡くなった家族に対してこういう気持ちを持ち続けていくのかもしれません。
亡くなった人の気持ちはもう分からないけれど・・・きっと風子は優しく見守っているんじゃないかな?


だからこそ英一が親族の前で啖呵を切るところはすっきり。
ずっと封印していた自分の気持ちに改めて向き合うことができたからこそ言えた言葉なんだと思いました。




印象に残った文章をあげておきます。


>―世の中にはいろいろな人がいるから、いろいろな出来事も起こる。なかには不思議な事もある。


>「生きてる者には、ときどき、死者が必要になることがあるんだ。僕はそれって、すごく大切なことだと思うよ。こういう仕事をしてるとさ、この世でいっちばん怖ろしいのは、現世のことしか考えられない人だって、つくづく思うから。」



表紙の写真も美しいなと思っていましたが、最後まで読んで使われた理由が分かり納得。
久々に読んだ宮部作品、楽しめました。