はぴの本棚

2003年からの読書日記

小さいおうち作者: 中島京子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/05/01メディア: ハードカバー購入: 6人 クリック: 128回この商品を含むブログ (116件) を見る

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中島京子さん。
読まれた皆さんの評価も高く直木賞受賞作ということもあり、予約の順番が回ってくるのを楽しみにしていました。


さらさら読めてしまうのにそれぞれの場面が鮮やかに浮かび深く心に残ります。
当時の暮らしを知らないはずなのに、なぜか懐かしい気がするのも不思議でした。
この感じは北村薫さんのベッキーさんシリーズに通じるものがありました。


戦前〜戦後の物語というとどうしても辛く苦しい時代で我慢ばかりの暮らしを想像してしまうのですが(もちろん食糧難などでやりくりに苦労する大変さも伝わってきますが)そればかりではなかったのかもしれないと思いました。
オリンピックや万博の延期、二・二六事件では女中の活躍で首相が助かったという話、てんぷら会など初めて知ることも多く物語を楽しみながら当時のことを学べたような気がします。


物語は女中タキの回想という形で始まります。

甥の健史が登場することで現代と対比してタキの生きた時代が鮮やかに蘇る気がしました。
健史が想像するイメージと当時を生きていたタキのイメージの違いには落差があり、とても興味深かったです。
その時代の渦中にあるとまた違うんでしょうね。
通り過ぎ振り返った時に初めて分かる部分もあるんだろうと思いました。


平井家で奉公することになったタキと時子奥様との深い絆。
恋愛事件をきっかけに二人の間に亀裂が入ってしまったのは悲しく思いました。


タキが去る時、奥様から記念として紅茶茶碗をいただくエピソードにはジーンとしてしまいました。
最後まで読んで真相を知ってから読み返すとなおさら切なかったです。


手紙についてはあまりひっかからず読んでいたので、最後にそうだったのか!と驚かされました。
途中で何度も登場した女中の「ある種の頭の良さ」というのがここで生きてくるんですね。
最終章で一気に色々なことが分かり印象に残りました。


絵本の『ちいさいおうち』をじっくり読み返してみたくなりました。


とてもよかったので他の中島作品もぜひ読みたいです。