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2003年からの読書日記

ミムス―宮廷道化師 (Y.A.Books)作者: リリタール,Lilli Thal,木本栄出版社/メーカー: 小峰書店発売日: 2009/12/01メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 26回この商品を含むブログ (9件) を見る

2004年のドイツ児童文学賞にノミネートされた他、数々の賞を受賞している作品です。
550ページ近くある分厚さに最初は圧倒されましたが、読み始めると一気に惹きこまれていきました。



モンフィール王国の皇太子フロリーンが罠にはめられ、捕らわれの身となるという劇的な展開から夢中になりました。
王子としての恵まれた暮らしから一転、道化師の弟子にさせられ屈辱を受け続ける日々・・・なんという落差でしょう。


一日一度きりの粗末な食事で空腹を抱えながらの全く経験のない道化師としての修行、地下牢に捕らわれている父王の身を案じながらも道化師の技を身につけなんとか生き抜く精神力にはすごいと思ってしまいました。


主役はフロリーンなんでしょうけど、物語の主役はタイトルでも分かるように師匠のミムスですね。

このキャラクターがなんとも強烈で一筋縄ではいかない魅力がありました。
ミムスを「ジョーカー」と連想したという訳者の言葉には納得でした。


ミムス(Mimus)の語源はラテン語の物まねにあり、古代ギリシア・ローマ時代に市場や私邸等で演じられた口上、軽業、物まね、身振り狂言等の芸とその演者をさすんだそうです。

お笑い、落語、喜劇など人を笑わせる仕事はとても難しいと聞いたことがありますが、道化師って大変な職業ですね。

王様をはじめ、身分の高い人々に無礼な口をきいたり、愚弄したりすることが許されていた宮廷道化師・・・なんとも不思議な存在だなと思います。



最初はミムスに反発していたフロリーンでしたが、だんだん尊敬にも似た気持ちも芽生えてくるところがよかったです。
普段は優しさのかけらもなさそうなミムスですが、だからこそフロリーンをかばったり、寝ている時に優しくなでてやる姿にはグッときました。


興味深かったのは人間の善と悪について。

完全にいい人、悪い人と決めつけられないから人間って奥が深く面白いんだと思いました。

ミムスはもちろん、父の過去、テオド王の家族へ対する態度、恐ろしいだけかと思われたマイスター・アントニウスの粋な計らいなど人には色々な顔があることを知ったフロリーン。
今後の成長が楽しみです。


最後の新しい印章にはフロリーンの気持ちが表れているようであたたかい気持ちになりました。



訳者あとがきで韻を踏む個所やだじゃれには、何度も頭を抱えたとありましたが、苦労の跡が感じられありがたかったです。
表紙絵は日本版オリジナルみたいですが、とても素敵で物語の雰囲気にぴったりでした。


著者の他の作品が日本語訳されるのを楽しみに待ちたいです。