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2003年からの読書日記

鷺と雪作者: 北村薫出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/04/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 44回この商品を含むブログ (112件) を見る

ベッキーさん>シリーズ第3弾。
「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」どれもよかったです。


ベッキーさんとの出会いから早三年以上、言葉には出さない部分も多いけれどお互いをよく分かっているなと思いました。
英子の危機を救う場面はヒヤリとしましたが、さすがベッキーさん!
行動パターンを読んでいましたね。


今回も謎解きを楽しめるのはもちろん、時代の波に翻弄されていく様子が前巻以上に感じられました。

シリーズを通して登場している兄の雅吉がいい味を出してます。
普段はおちゃらけているようですが、実はちゃんと知識もあり、色々分かっているよう。
そして妹思いの優しい兄なんですね。


「不在の父」
失踪の謎はなるほど・・・と思ってしまいました。
この事件、実際にあった出来事から創作を加えたものだったんですね。
(現実の事件は明治時代だったそうです)
なんとも切ない結末でした。


「獅子と地下鉄」は読んでいてホッとできる作品でした。
受験戦争はこの頃から厳しいものがあったようです。
父親の気持ちを無にしないようにした巧君の気持ちがいいなと思いました。
ベッキーさんの魔法の消しゴムもいいですね。

三越のライオンはロンドンのトラファルガー広場にあるライオン像を模して作られたというのは初めて知りました。
今も人目を忍んで三越のライオンに乗ろうとする受験生はいるんでしょうか?
なんだか滑稽なような可愛いような・・・



さて「鷺と雪」です。

二・二六事件は授業で少し触れた記憶があるものの、ほとんど頭に入っていなかったようです。
パソコンで検索して少し読んだだけでも自分の無知さ加減に愕然となりました。
日本人として日本の近現代史をもっと知っておかなければ恥ずかしい。
反省も込めて・・・今からでも遅くないはず。

二・二六事件といえば以前読んだ『蒲生邸事件』(宮部みゆき著)を思い出します。
当時はよく分からないまま読み終わったのですが、こちらも再読したくなりました。




>人の世の進歩とは、権利や自由が、微かな日に大きな氷が解けるように、ゆっくりと、より多くの手に渡って行くことではないのか。
という英子の言葉は印象的だったし、


>「〜今のわたくしはただ、欲しいものが何であれ、命を、まして他人の命をもって贖われる世ではなくなることを-願うばかりです」
というベッキーさんの言葉も強く心に響きました。


英子と若月は二度の再会がありましたが(二度目は電話の声だけ)もう次会うことはないのかな・・・
淡い恋と自覚する間もなく時代のせいで引き裂かれてしまうのがなんとも悲しかったです。
桐原大尉とベッキーさんもですが、現代で出会っていたらまた違っていたんでしょうね。


漢書の一節「-善く敗るる者は亡びず」

「はい、わたくしは、人間の善き知恵を信じます」というベッキーさんの言葉が読み終わった後も余韻として残りました。



北村さんの作品はいつも参考文献の数がものすごくて圧倒されます。
だからこそ素敵な作品が次々と生み出されるんでしょうね。

この巻が文庫化されたらシリーズ揃えて手もとに置いておきたくなりました。
未読の作品やシリーズも他にたくさんあるのでこれからも追いかけていきたいです。