はぴの本棚

2003年からの読書日記

獣の奏者 (3)探求編作者: 上橋菜穂子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/08/11メディア: 単行本購入: 14人 クリック: 68回この商品を含むブログ (101件) を見る獣の奏者 (4)完結編作者: 上橋菜穂子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/08/11メディア: 単行本購入: 12人 クリック: 55回この商品を含むブログ (110件) を見る

なるべくネタバレしないよう心がけていますが、まっさらな気持ちで作品を手に取りたい方は読まない方がいいかもしれません。









<闘蛇編><王獣編>が「人と獣」の物語であるとすれば、<探究編><完結編>は、「人々と獣たちの歴史の物語」なのかもしれません。

こうあとがきで上橋さんがおっしゃっている通り、より大きなスケールでエリンと共に過去の人々や獣たちに思いを馳せながら歴史を辿る物語でした。


ついに終わってしまった・・・ゆっくり味わおうと思っていたのとは裏腹にすぐ夢中になってしまい、ページをめくる手が止まりませんでした。
続きを読みたいという夢が叶ったのに、読み終わるのがもったいないというジレンマ(笑)
でもこれまで続きがなかったとは思えないほどうまく物語が閉じられていて納得の結末。
上橋菜穂子さんは改めてすごい作家だと思いました。



あれから11年後・・・この巻からはエリンも30代になり夫と息子がいるという設定で軽くショックを受けてしまいました。
ある闘蛇村で牙の大量死がおこり、調査を依頼されたエリンは家族と離れ真相を探っていきます。
自分を残して亡くなった母を思いながらも様々な事実を知るうちに母とは違う道を歩み始めるエリン。
静かで穏やかな生活を望んでいたのに、やっぱり巻き込まれてしまいます。
命を狙われる存在だから仕方ないとはいえ、常に警備兵に守られ管理される暮らしはなんともいえずかわいそうでした。


エリンの息子ジェシをはじめ、ヨハル、ロランなど新たな登場人物も加わり、より物語に深みが増した気がします。
また自分が女性だからかもしれませんが、女性に注目して読んでいた気がします。
エリンはもちろん、セィミヤ、エサル、今回から登場するシュナンの妹のオリ、クリウなど色々なタイプの女性が登場しますが、それぞれとても魅力的。
セィミヤはエリンに対して「勁い」と言っていましたが、セイミヤも自分に厳しいからそう思うのであって十分勁いのでは感じました。
人々には皆それぞれ立場があり、思いもあって・・・葛藤を繰り返しながら懸命によりよい道を探そうとしている様子が伝わってきました。


>どれほど多くの事情が絡み合っていたとしても、生き物の生をゆがめるのは、間違っている。その一点だけは、どんな事情の中でもゆらぎはしないのだ。
幼い頃から一貫しているエリンの強い思いが感じられます。





戦いが始まることが決まり、エリンが柱にすがりつき声を出さずに喘いだ場面では私まで胸が苦しくて痛いほどでした。



エリンがジェシに語る場面は心に強く響きました。

>「人はとっても小さいから、一人で、すべてを見ることはできない。でも、人は言葉を持っているから、自分が見つけたことを人に伝えることができる」


>「人の一生は短いけれど、その代わり、たくさんの人がいて、たとえ小さな欠片でも、残していくものがあって、それがのちの世の誰かの、大切な発見につながる。・・・・・・きっと、そういうものなのよ。顔も知らない多くの人たちが生きた果てにわたしたちがいて、わたしたちの生きた果てに、また多くの人々が生きていく・・・・・・」


これはそのまま上橋さんが物語を書く気持ちにもつながっているように思えます。



では、自分は何が残せるだろうか?とも考えてしまいました。
私は上橋さんのように物語を書くことはできないけれど、自分の生きた証は残したいと改めて思いました。
やっぱり書くことかな?でもまずは思いを夫へ子どもへ、そして大切な人達へちゃんと伝えることが大事ですよね。
これだけでも心がけていきたいです。


結末が近づくにつれ涙がじんわり、ポロポロ、ボロボロ。
でも最後のページを閉じる時にはこれでよかったんだと思えました。
希望が見える結末で救われました。


読みながら多くのことを感じましたが、一番印象に残ったのはあきらめないこと、伝えることだったような気がします。
人と獣、人と人、国と国など・・・たとえ分かりあえないとしても努力することをあきらめてはいけない。

また自分の思い・生きた証を残すこと、伝えること。
後世につなぎたいという強い思いも感じました。


今年のベストに入ること間違いなしの面白さでした。
上橋菜穂子さん、続きを書いてくださって本当にありがとうございました!
「守り人」シリーズも思い入れのある大好きな作品だけれど、こちらも同じくらいお気に入りになりました。
きっとこれからも何度も読み返す大切な物語になりそうです。