はぴの本棚

2003年からの読書日記

倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)作者: 皆川博子出版社/メーカー: 理論社発売日: 2007/11メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 127回この商品を含むブログ (77件) を見る

皆川博子さん。
幻想的な雰囲気の物語にいつの間にか絡め取られてしまった感じでした。


舞台は戦時中のミッションスクール。

図書室の本にまぎれて置かれていた蔓薔薇模様の美しいノート、そこには『倒立する塔の殺人』とタイトルだけ書かれています。
そのノートを見つけた少女達が続きを書き継いでいく物語という設定なので章ごとに印象がガラッと変わりました。
ノートの物語と現実の物語が並行して進んで行くので、そこが混乱する部分でもあり、大きな魅力でもあり・・・面白かったです。


最後にはある少女の不思議な死の真相やノートの持ち主の正体も明らかになり(途中でちょっと予想できた部分もありましたが)ミステリの部分も楽しめました。


相次ぐ空襲、戦死者が増える中での工場の辛い作業、かなり厳しい状況が描かれているにもかかわらず戦争の印象は不思議と強く残らず、少女達の思いや気持ちの揺れなどが印象的でした。


>わたしたちは切り花なのだ。空想ーあるいは物語ーという水を養いにしなくては枯れ果ててしまう。しかも、その水には、毒が溶けていなくてはならない。毒が、わたしたちの養分なのだ。


戦争の時代を経験していない私だから言えるのかもしれませんが、厳しく暗い不自由な時代だからこそ芸術や美、文学に憧れる気持ちもより強かったように思いました。
苦しみながらも少女達の生がより一層輝いている気がしました。


戦時中のミッションスクールということでお嬢様が多い中、語り手の阿部欣子の地に足のついた存在感はよかったし、嫌われ者の設楽久仁子もなんともいえない魅力がありました。


読み終えてから改めて表紙を見ると三人の少女は左から三輪小枝、上月葎子、七尾杏子でしょうか?
表紙の雰囲気も物語とよく合ってますね。

皆川博子作品、少しずつ読んでいきたいと思います。