風の靴作者: 朽木祥,柏村勲,服部華奈子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/03/28メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 30回この商品を含むブログ (10件) を見る
朽木祥さんはずっと気になっていましたが手に取ったのはこれが初。
夏にぴったりのいい時期に読むことができました。
私は大人になって出合ったけれど、主人公くらいの年齢の子ども達にこそぜひ読んで欲しい物語です。
簡単なあらすじを説明すると、主人公の中学生海生と親友の田明、その妹の八千穂、海生の愛犬ウィスカーがヨットで家出する物語なんですが、あっと驚くような派手な事件や山場があるわけでもないのに(むしろ地味)すごくよかった♪
田明の言葉を借りると「きらきらきらきら」している物語でした。
爽やかな風に吹かれながら一緒にヨットに乗っている気分になりました。
中学受験に失敗した海生。
優秀な兄がいて比べられることにコンプレックスを持っています。
それに追い討ちをかけるように海生に航海術を教えてくれた大好きなおじいちゃんが亡くなり、心にぽっかり穴があいてしまったような日々。
これまでに溜まっていたもやもやがついに爆発、家出を決行します。
一応の操作はできるとはいえ、中学生達だけでウィンドシーカー号を船出させる場面はとても緊張しました。
そして冒険の数々の楽しくてワクワクすること。
思いがけない拾い物!をしたり、おじいちゃんの残した宝物を探したり、キャンプファイアを楽しんだり・・・
>「今日が、ずうーっと終わらなければいいのに。」
海生達にとってはこれらの出来事が一生の思い出になるんでしょうね。
海生と田明の関係もうらやましいくらいに素敵でした。
ほどよい絶妙の距離感というか、自然とお互いのことを思いやって気配りができるところ、いいですね。
この友情がずっと続いていって欲しいなと思ってしまいます。
家出から戻り、確実に心の中の何かが変わった海生。
<だれでもない、ぼくが、風に靴を履かせて駆けていくんだ。>
きっとこれからの人生色々あるんだろうけれど、彼ならヨットをうまく操るように乗り越えていける気がします。
そうそう、また別の物語、という文章が何度か出てきます。
それも読みたいような自分の想像でとめておいた方がいいような(笑)
表紙のさわやかな海の絵はヨット画家の方が描かれたそう。
海を愛する人の気持ちが伝わってくるようでした。
別の方が描かれた鉛筆画の挿画も繊細で味わいがありました。
神宮輝夫さんの解説もよかったです。
「不思議な物語」という言葉が何度も出てきますが、本当にそう。
>若者や子どもに向けた物語は、日本の作家が書いたものも、外国作品の翻訳も、たくさん出版されています。それは、とても喜ばしいことです。しかし、残念なことに、目まぐるしく繰り広げられる事件を大げさな言葉を並べて語る、騒々しい作品がやたらに目につきます。そんな中で、登場人物たちの言動を的確にとらえて地味なくらいに抑えて語りながら、読者の興味・関心を先へ先へと推し進めて離さないこの物語は、子どもの文学の新しい流れを予感させます。
長く引用させてもらいましたが、この文章に同感です。
これだけ楽しめる物語が日本で出版されること、本当にうれしいことです。
ずっと気になっていたアーサー・ランサムのシリーズもこれを機にぜひ手に取ってみようと思いました。
朽木祥さん、これから追いかけていきたい作家に仲間入り決定です!