かはたれ (福音館創作童話シリーズ)作者: 朽木祥,山内ふじ江出版社/メーカー: 福音館書店発売日: 2005/10/31メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 27回この商品を含むブログ (7件) を見る
先日読んだ朽木祥さんの『風の靴』がとてもよかったので、別の作品も借りてみました。
河童が主人公というのがまずユニークだし、珍しい。
河童というとちょっと不気味な印象がありますが、この物語に登場する子河童の八寸はとてもかわいらしいんです。
私に姿が見えるかは別として、八寸みたいな河童なら現実にいてもいい・・・かな?
家族を失い一人ぼっちで暮らしていた八寸は長老の術で猫の姿に変身させられ人間界に修行に出されます。
河童に戻ってしまうので気をつけなければならないのは、自分の欲に我を忘れる時、そして水。
水は河童にとって大切なものなのに「切れてもならぬが、浴びてもならぬ」というのはなかなか難しいかも。
そして霊力のある名入りの緑色の珠もお守りとして首にかけられます。
この珠、河童の姿に戻った時に三度までは助けてくれるという不思議なもの(四度目は絶体絶命の時)
助けてもらったら必ず月の光で満たさないとただの石ころになってしまうとのこと。
月の光を浴びる猫・・・なんとも幻想的でした。
他の犬と違って吠えない情けない顔の犬チェスタトンに興味を持ったのをきっかけに飼い主である小学5年生の少女麻に出会い、その家で世話になることになった八寸。
八寸は子どもの河童で人間でいってもおよそ八歳、好奇心が強くいたずらしたい盛りなんでしょうね。
猫としての暮らしは長く続かず、しばらくすると結局河童だということがばれてしまうのがおかしくて・・・
キウイを食べて気絶したり、大好物のきゅうりを我慢できずに食べ正体を現してしまったり、トイレットペーパーで夢中になって遊んだり(これは河童に戻ってからだけど)失敗やいたずらの数々になんともいえない愛嬌がありました。
一方、母親を病気で亡くし沈んでいた麻。
悲しみと苦しみに押しつぶされないよう日々過ごすことに精一杯で何も心に入ってこなくなっている様子にはとても切なくなりました。
学校で傷ついた麻が帰宅してまで泣くまいと歯を食いしばってこらえる場面
>人は悲しいから泣くばかりではない、泣くから悲しくなるのだということを、今ではよく知っていたからだ。
泣いてもいいのに・・・と思うと同時に胸が痛くなりました。
しばらく忘れていた母との思い出のすみれ色のノート。
「きれいなものをいっぱい書こうね」
麻の母親はとても素敵な女性だったんだなと想像できます。
八寸と出会ったことで少しずつ麻の心が開かれていく様子もよかったです。
そして父親。
彼なりに一生懸命やってきたんだけど、麻の悲しい気持ちを受け止められてなかったんですね。
「自分の心の感じることが、いつでも、たいてい、ほんとなんだ」という父の言葉と長い長い手紙。
ギリギリのところで麻に向き合うことができたこと、真摯な気持ちが伝わってよかったです。
偶然だけど読みたいと思っている星野道夫さんの『旅をする木』がちらっと引用されていたのもうれしく思いました。
楽しい日々はあっという間に過ぎ、麻のピンチを救った八寸との突然の別れ
がやってきます。
チェスタトンの活躍で無事河童の世界に戻れたのはよかったけれど、八寸も麻も寂しかったでしょうね。
でもお互い離れていてもきっと心には楽しい思い出がずっと残っているはず。
続編の『たそかれ』がさらに楽しみになりました。
「かはたれ」というのがおぼろげな朝刻のことというのは初めて知りました。
季節や色をはじめ、日本語には繊細で美しい言葉がたくさんあること、自分が日本人でよかったと思います。
ユーモアもありながらそれだけでは終わらず、最後にはじんわり感動させてくれる。
これからも朽木さんの物語にますます目が離せなくなりそうです。