はぴの本棚

2003年からの読書日記

f植物園の巣穴作者: 梨木香歩出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2009/05/07メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 40回この商品を含むブログ (84件) を見る

予約の順番が思ったより早く回ってきました。
梨木さんの小説、やっぱり好きです。

読み始めてすぐ『家守綺譚』の時代に近い雰囲気を感じました。
そして「水辺」「穴」など湿度のある独特の感じは『沼地のある森を抜けて』にもつながるものがあるような・・・
『沼地の〜』は一筋縄ではいかない難解な印象があったけれど、今回はより理解しやすくかつ進化しているように思いました。


日常と非日常が絶妙にミックスされていて、不思議と心地いい梨木ワールド。
読んでいる私も一緒に巣穴に落ちてしまった気持ちになりました。


ちょっと前に歯の治療に通っていたこともあり、歯科の場面がよりリアルに感じられてドキドキしました。
それにしても前世が犬!で慌てると戻ってしまう歯科医の家内には治療を任せたくない(笑)


妻の「千代」、子どもの頃お世話になったねえやの「千代」、スターレストランの「千代」
「千代なるもの」を探すあてのない旅が進んでいきます。

そこで出会った「坊」。
彼の正体は最後に分かるんですが、二人のやりとりがなんともいえずあたたかくて微笑ましかったです。


>痛いのは心なのでしょう。

>心はいたるところにありますよ。足にも手にも、臓物にも、もちろんのこと、歯にですら。人の身体の範疇であればどこだって、心は宿ります。

この文章にじーんときてしまいました。


そして結末・・・千代との再会。
もう一度生まれ変わったような主人公。

忘れていた(心に無意識のうちにしまい込んでいた記憶)を掘り起こす作業をすることで目を背けていた辛い気持ちを本当の意味で受け入れることができたんだと思います。

あたたかい気持ちで本を閉じることができました。