はぴの本棚

2003年からの読書日記

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)作者: ベルンハルトシュリンク,Bernhard Schlink,松永美穂出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2000/04/01メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 16回この商品を含むブログ (53件) を見る

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再読です。たぶん初めての時は出版されてすぐくらいに読んだはず。
5〜6年ぶりなのでどんな物語だったのかほとんど忘れていて、新鮮な気持ちで読むことができました。
以前は翻訳の小説もあまり読まなかった頃なので、難しいという思いばかりありましたが、今回はじっくり物語の世界に浸れました。

物語はI〜Ⅲのパートに分かれています。
Ⅰハンナとミヒャエルの恋愛と別れ
Ⅱ裁判での再会
Ⅲ裁判後
IとⅡ、Ⅲではガラッと印象が変わります。

初読の時は、Iの印象が強く残っていて、15歳の少年と母親ほど年の離れた女性との恋愛ばかりに目が向けられていたように思います。

今回はハンナの思いやミヒャエルの苦悩を想像しつつ読めました。
でも、Ⅱ、Ⅲがきれいさっぱり忘れ去られていたのには我ながら愕然としました。
それにハンナが最後にとった行動・・・
記憶から全く抜け落ちてしまっていたのにはびっくり。

強制収容所のこと、裁判のこと、ドイツの過去の歴史など当時の私には(今もですが)じっくり考えることができなかったのかもしれないけれど、物語の上っ面を滑るように読むだけだったとは、もったいなかったです。
途中「歴史を学ぶということは、過去と現在のあいだに橋を架け、両岸に目を配り、双方の問題に関わることなのだ。」という文章が出てきますが、私自身、日本(現在も過去も)だけでも知らないことが多いのに改めて気づきます。
学ぼうとしていなかったのかもしれず反省ですが、今からでも少しでも自分の視野を広げていきたいと思いました。

文盲ということ・・・
それがどれほどの苦しみなのかは想像することも難しいし、きっと本当に理解することはできないのかもしれない。
でも、それを隠すために「本来の生活とは関係のないところで費やされるエネルギー」が必要だという文章はとてもよく理解できました。
その人にとって譲れないプライドって、それぞれだろうけどきっとあるはず。

ハンナがプライドを守るために、またハンナ自身にとっての真実と正義のために裁判所でとった行動、その代償はあまりにも大きかったけれどハンナはきっと最後には満足していたんじゃないかと思います。

印象に残っている場面も文章もたくさんあります。
今も浮かんでくるのは、ハンナがミヒャエルの家で父親の本棚の本を一冊一冊指でたどっていく場面。

裁判長に「〜あなただったら何をしましたか?」と問いかける場面。

あとがきでこの物語を二度読むことをすすめている理由にもうなづけます。
「ただ、一読したときにはインパクトの強い事件ばかりが印象に残るが、二読目に初めて登場人物たちの感情の細やかさに目が開かれる、〜」

今回再読できて本当によかった!
今が私にとっての読みどきだったのかもしれません。

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リリ姉 > 懐かしい!でも仰るとおり、読み返したい一冊です。最初読んだ時は、「文盲」という状況がぴんとこなくて、そうなんだ〜って感じだったけど。今の日本は識字率99%って誰かに聞いたけれど、コロンビアとかベトナムとか世界では未だ多くの国にあるのですね。ハンナのプライドは、理解できたと思うけれど自信がない・・・。また読み返してみよう。 (2006/02/02 08:29)
ぱせり > わあ、わたしも再読したいです。二度目でわかることや感じることっていろいろありそうですね。
重たいですが、「ハンナはきっと最後には満足していたんじゃないかと思います。」には、そうあってほしいです、せめて。 (2006/02/02 16:36)
ミワ > こんばんは!先日ケイさんのところにこの『朗読者』のコメントをさせていただきにいって、ちょうど内容を思い出していたところだったので、トントンさんのこの感想のアップがあって、うわぁとなりました。
「譲れないプライド」、そのとおりだと思います。文盲ではないわたしたちからすると不思議にすら思える、ハンナの文盲であることに対するコンプレックスとその行動とプライド。でもこれこそがきっと本物のプライドなのかもしれないと思いました。こんな状況でも誇りをもって自らの生をまっとうしたハンナの足元にも及ばないなぁと思ってしまいます。 (2006/02/02 22:42)
雨あがり > 私もこの本が出てすぐの頃読みました。が、評判ほどには心に残っていないのです。きっと上っ面だけ読んだだけだったのですね。いつか読み返そうと文庫本買ったのですが、それで安心してしまってそのまま。。トントンさんの感想を読ませてもらって、必再読!と思いました。 (2006/02/02 22:49)
ゆきみ大福 > この本は「読み時」を強く必要とする本ですよね。私もこの間の再読時は「どうしてこんなことを読み落としていたのだろう」というくらい物語の真の内容がようやく理解できました。やはり初読時はハンナとミヒャエルの恋の印象しか残らなくて・・・。私はハンナはいつもどんな時も「あなただったら何をしましたか」と世間に問いかけていたのだと思います。そして誰もその答えをくれなかった。「そうするしかなかった」としか言いようのないハンナの人生が読後重くのしかかりました。 (2006/02/02 23:32)
トントン > たくさんのレスありがとうございます!
>リリ姉さん、こんにちは♪私も最初に読んだ時は「文盲」ってぴんときませんでした。でもハンナの行動や気持ちを想像しつつ再読したら前より少しは理解が深まった気がします。今の日本の識字率すごいですよね。当たり前のように日々過ごしているけれど他の国ではまだそれが当たり前のことではないんだと思いました。リリ姉さんもまたじっくり時間のあるときに再読してみてくださいね。
>ぱせりさん、私は5年くらい経ってしまいましたが、再読してよかったです。初めて読んだ時は全然気にならなかった場面がすごく印象に残ったりして、興味深かったですよ。「ハンナはきっと最後には満足していたんじゃないかと思います。」という言葉は自分のそうあって欲しいという願いもちょっと込められているんです。重たいですけどハンナはそれでよかったんだって思いたいのかもしれません。
>ミワさん、こんにちは♪読み終わってそろそろ感想UPしようかなと思ってたときにミワさんのレスを見つけたんですよ。偶然だけどいいタイミングでしたね^^ハンナの譲れないプライド・・・当たり前に読み書きできる私たちだから想像するのも難しいけれど、きっとハンナにとっては重要なことだったんでしょうね。>こんな状況でも誇りをもって自らの生をまっとうしたハンナの足元にも及ばないなあと思ってしまいます。このミワさんの言葉、ずっしり響きました。
>雨あがりさん、この本発売当時すごい評判でしたよね!私も評判につられて読んだのですが、驚くほど印象に残ってなかったんです(笑)再読であらためて深く読めた感じです。もう文庫本が手もとにあるんですね。必再読!ぜひぜひ♪
>ゆきみ大福さん、そうなんです「読み時」ってやっぱりありますよね!私はゆきみ大福さんの感想で再読しようって思えたんですよ。あれからだいぶ経ってしまいましたがやっと読むことができました。ゆきみ大福さんも最初はハンナとミヒェエルの恋の印象しか残らなかったんですね。たしかにかなり衝撃でしたが、真の内容はもっと別のところにあったんですね・・・裁判でのハンナの問いかけ、重いです。ゆきみ大福さんがおっしゃるように、ハンナはいつもどんな時も「あなただったら何をしましたか」と世間に問いかけていたのだと思いました。再読で深く読むことができて本当によかったです。そのきっかけをくれたゆきみ大福さんにも感謝しています^^(2006/02/03 12:18)
ゆきみ大福 > こちらこそ、トントンさんと語り合えて(あえてこの本のことは「語る」と言いたいのです!)嬉しいです。ありがとう!この本は本プロがなければ、きちんと理解できないまま忘れてしまった本だと思います。なのでつくづく本プロという場所と、こうして語り合える皆さんの存在がありがたいのです。また、誰かが「朗読者」をupした時に一緒に語り合いましょうね〜。 (2006/02/04 00:36)
トントン > ゆきみ大福さん、そう言っていただけるとうれしいですよ!そうそう、この本は「語る」というのがまさにぴったりですよね。さっきあらためて皆さんの感想をじっくり読んできました。難しい本は特になんですが、自分が理解した部分以上のものが本プロでは得られると思います!本プロという場所と、語り合える皆さんの存在は本当に大きいですね^^また誰かがUPされる時を楽しみに待ちたいと思います。 (2006/02/04 21:36)
ケイ > こんばんは。トントンさんらしい書評に、うれしく思いました。らしいって書くと気にかかるかもしれないけど、私は哀しみを理解出来ないことも幸せなのかもしれないと思うの。私もドイツのこの時代は分かりません。。恋を一番に出したのは、そんな平凡な思い出すらない人もいるという事実かもしれないんですよね。私はこの物語の真摯さに打たれました。目を背けないことって、本当に難しいね。忘れてしまうほうがどんなに楽だろうかと思うけれど。ハンナという一個人ではなくて、みんなが自分だったらと思ってこの本を読んだら、争いは少しは減るのかしら。と思いました。綺麗なことはいえますが、本当に自分だったら、、貧しい境遇の中で生きていたハンナのことには涙が出ます。また話しましょうね。この本、反響が多くて、私もうれしいです。 (2006/02/05 20:45)
ケイ > トントンさんらしさ、、ハンナは満足していたのではというお言葉です。その人のなかのあたたかみ、明るさ、優しさ。それが人生の救いのような気がします。またね。 (2006/02/05 20:50)
ケイ > 深読みかもしれないけど、冒頭のタブーのような恋は、そのあとの伏線かもしれない。人の秘密。そこには哀しみがありますね。。 (2006/02/05 20:52)
トントン > ケイさん、こんにちは♪私らしい書評と言って下さってありがとうございます。うれしいような照れくさいような(笑)「ハンナは満足していたのでは〜」という言葉は私の願いというか希望でもあるんです。哀しみを理解出来ないことも幸せかもしれないんですよね。忘れる方が楽・・・目を背けないことって、本当に難しいんだけれど、本を読むことでこうやって考えたり、気づくこともありますよね。自分だったらと想像することは大事だと思うし、ケイさんのおっしゃるように争いも少しは減るのかなあ?そうだといいですね。冒頭の恋は伏線かもしれない・・・というケイさんの読み!ひょっとしたらそうかも^^全然考え付かなかったです。この本は難しい部分も多かったけれど、皆さんと色々語ることができて自分で感じた以上に理解も深まった気がします。一つの本で色々な意見を聞くことができることが本プロのよさですよね♪ (2006/02/06 15:04)
青子 > トントンさん、こんばんは。すごいレスですね。皆さんのレスに一々頷きながら拝見しました。私たちはハンナの痛みを体験することはできませんが、目をそむけずに想像力でハンナの置かれた立場を思いやることは可能です。そうやって少しずつでも皆が安心して暮せるよりよい世界に近づけるように行動ができたら良いですね。 (2006/02/19 01:23)
トントン > 青子さん、こんばんは♪私も皆さんのレス一つひとつをじっくり読みながら物語をもう一度味わった感じです。青子さんのおっしゃるように、ハンナと同じ痛みを体験することはできなくても想像力で思いやることができるんですよね。「少しずつでも皆が安心して暮らせるよりよい世界に近づいていけるように行動ができたら良いですね」という言葉すごくいいなと思いました。私もそうありたいです。 (2006/02/20 23:43)