はぴの本棚

2003年からの読書日記

西日の町作者: 湯本香樹実出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2002/09メディア: 単行本この商品を含むブログ (12件) を見る

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湯本さんの作品は生と死、老人と子どもがテーマになっているものが多い気がします。
これもそんな1冊ですが、主人公の僕よりも母と祖父の親子関係に重点がおいてある感じでした。

爪きりの絵が表紙にあり、印象的です。

>母は夜更けに爪を切った。てこじいのうずくまっているそばで、ぱちん、ぱちんとゆっくり、できるだけ大きな音をたてて。

>そのくせ僕が同じことをしようとすると、吊り上がった大きな目を眇めて言うのだ。
「親の死に目にあえなくなるよ」


離婚した母親と二人暮らしの僕は西へ西へと住む場所を転々としましたが、やっと落ち着いたのが北九州のKという町。
ある日二人の住んでいるアパートに突然祖父が転がり込んできます。
母がたびたび話していた変わっている祖父、あだ名はてこじい。

てこじいは部屋のすみっこに置いてあるたんすの横が定位置で、いつも同じ姿勢でうずくまっています。もちろん寝る時も!

このてこじい、かなり突拍子もない謎の人物。
戦後家族で東京に出てきてからは、一人で出て行ったきり音信不通。
たびたび戻ってきてはまたいなくなることを繰り返しています。

そんなてこじいに最初は嫌悪感を持ってしまった私ですが、読んでいくうちにそんな気持ちは薄れていました。

母は転がり込んできたてこじいに意地悪もしますが、世話を焼いたり、優しくもして複雑な心境が見え隠れします。
爪を切るのもそんな気持ちの表れだったのかもしれません。

叔父から聞かされる母とてこじいの思い出話の数々・・・二人の絆は本当はとても強いんじゃないかと思いました。

てこじいが母のために一日がかりで貝をたくさん取ってくる場面がすごく好きです。
不器用だけれど娘に対する愛情が溢れているように思います。

薄くてすぐに読める本ですが、テーマは重く深いです。
でも暗くはなくて、読後はじんわりとあたたかい気持ちになれます。





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ぱせり > トントンさん、これも是非読みたいです!斜め読みで帰りますね。重くて深くて読後じんわりとあたたかい気持ちになれる本、楽しみです。わたしは今「くまっていいにおい」(ゆもとかずみ&ほりかわりまこ)を借りています♪ (2005/05/29 07:48)
ありんこ > とても謎めいているけれど、存在感のある「てこじい」。血のつながりって不思議ですね。子ども目線で、情感たっぷりに描かれている湯本さんらしい本ですね。自分と重ね合わせて、なんだかせつない気分になりました。 (2005/05/29 09:52)
ミワ > 湯本さんのこの本、知りませんでした(>o<)!わたしもぜひ読みたいです。「てこじい」という名前、インパクト大ですね。祖父と母と僕、その3人だけでもすごく深い物語が描かれているんだろうなぁと思います。 (2005/05/29 21:29)
トントン > ぱせりさん、あっという間に読めるんですがこれもじっくり楽しめると思いますよ。ぱせりさんの感想楽しみに待ってますね!『くまっていいにおい』初めて聞きました。ぜひ読まねば。
ありんこさん、湯本さんの本ってじんわりきますよね。てこじい、本当に突拍子もないんだけどすごい存在感で、なぜか憎めない不思議な人でした!ありんこさんのように自分と重ね合わせる読書も素敵ですね。
ミワさん、私も本プロで知ったんですよ。名前(あだ名)もだけど、それ以上に行動がインパクト大です!ミワさんもぜひ読んでみてくださいね♪ (2005/05/30 13:27)
もとみや > トントンさんこんにちは。昨日読み終わりました。
表紙の爪きりはホント象徴的ですね。お母さんがおじいさんをよび出すおまじない。そして僕も同じようにやってみるけれど、お母さんはきっと・・・という最後の3行でぐっときました。 (2005/05/31 08:10)
トントン > もとみやさん、最後の3行ぐっときますね!お母さんはてこじいの死後も爪きりをすることで、心が落ち着いたのかもしれないですね。また読み返したい物語になりました。 (2005/06/03 09:30)
ぱせり > こんにちは。わたしも貝のところ、一番印象に残っています。重くて深くて、暗くなくて、じんわりあたたかい、本当にそういう本ですね。すぐ読めてしまうけれど、深い本ですね。 (2005/06/06 10:09)
トントン > ぱせりさん、短くてすぐに読めてしまう本だけど、とても心に響きますよね。私は湯本さんの未読の本がまだ数冊あるんですが、じっくり大切に読んでいきたいと思っています。 (2005/06/08 11:52)