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2003年からの読書日記

蜩ノ記 (祥伝社文庫)作者: 葉室麟出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2013/11/08メディア: 文庫この商品を含むブログ (22件) を見る

豊後羽根(ぶんごうね)藩の檀野庄三郎(だんのしょうざぶろう)は不始末を犯し、家老により、切腹と引き替えに向山村(むかいやまむら)に幽閉中の元郡(こおり)奉行戸田秋谷(とだしゅうこく)の元へ遣(つか)わされる。
秋谷は7年前、前藩主の側室との密通の廉(かど)で家譜編纂(へんさん)と10年後の切腹を命じられていた。
編纂補助と監視、密通事件の真相探求が課された庄三郎。
だが、秋谷の清廉(せいれん)さに触れるうち、無実を信じるようになり……。
凛烈(りんれつ)たる覚悟と矜持(きょうじ)を描く感涙の時代小説!

葉室麟さん。
映画化された直木賞受賞作を母に借りました。
映画を先に観てから(こちらもよかった)読みましたが、映像の効果もあったのか久々の時代小説だったのにすっと物語に入っていけました。
内容もそうですが、目に浮かぶような自然描写が素晴らしかったと思います。
映画と本で物語をじっくり味わうことができてよかったです。


命の期限が決められている日々が描かれている小説とのことで暗い雰囲気を想像していたけれど、緊張感はあるものの暗さはあまりないことに驚きました。
あと3年したら切腹しなければならない・・・現代なら末期患者の余命宣告に近いのかもしれません。
でも秋谷の場合、体調には何も問題がないので、苦悩と葛藤はいかばかりか?想像することも難しいです。


秋谷の人柄に触れ、彼が無実かもしれないと思うようになり、真相を追及しようとする庄三郎。
謎解きの要素もあって楽しめたし、庄三郎が秋谷の影響を受けて変わっていく姿もよかったです。


武士の誇りと覚悟(特に秋谷)は現代に暮らす私には理解できないほど強いものなのだと感じました。
秋谷を見送る妻、子ども達の姿も凛としていて素敵でした。

そして特に印象に残ったのは源吉。
親を思い、妹を思い、大切な友達を思って生きた彼はすごいと思いました。


映画でも感じましたが、切腹の日の夫婦の会話がとてもよかったです。
死を目前にして自分の人生に「悔いはない」と迷いなく言うことができるか分かりませんが、私もそうなれるよう日々を大切に過ごしたいと思いました。


印象に残った文章を挙げておきます。

>「あのように美しい景色を目にいたしますと、自らと縁のあるひともこの景色を眺めているのではないか、と思うだけで心がなごむものです。生きていく支えとは、そのようなものだと思うております。〜」(松吟尼の言葉)