はぴの本棚

2003年からの読書日記

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)作者: 高田郁出版社/メーカー: 角川春樹事務所発売日: 2009/05/18メディア: 文庫購入: 15人 クリック: 405回この商品を含むブログ (165件) を見る

時代小説の面白さが最近少しずつ分かってきたような気がします。
このシリーズは3冊まとめて購入してからずっと積んでいましたが、もっと早く手に取ればよかった!
読み始めるとすぐに夢中になってしまいました。


神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。
店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。
大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。
しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・・・・。
料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!


どんな困難や妨害にあおうとも乗り越えていく主人公をつい応援したくなります。
試行錯誤を繰り返しながら作る旬を使った心のこもった料理。
美人のヒロインとは違う下がり眉というのも愛嬌があって魅力的です。


血のつながりのある親きょうだいはいないけれど、澪の周りの人達の存在があたたかくて救われます。
芳や種市とは親子のような絆で結ばれているし、おりょうや伊佐三夫婦をはじめ近所の人にも恵まれていて本当によかった。


面白かったのは江戸と大坂の食文化や気質の違い。
ところてんの味つけの違いは知っていましたが、他にも色々あって勉強になりました。


八朔の雪の意味は初めて知りました。
とてもきれいな言葉だけれどはかない感じもしました。


タイトルになっている「ぴりから鰹田麩」「ひんやり心太」「とろとろ茶碗蒸し」「ほっこり酒粕汁」のレシピが最後に紹介されています。
どれも美味しそうで作ってみたくなりました。
今の方が時間も手間もかけられるはずなのにと思うとちょっと恥ずかしい気持ちになりますが、澪を見習って少しでも丁寧に料理をする時間を持ちたいです。



絶妙のタイミングで現れる謎の人物小松原との今後や、幼なじみの野江と再会できるのかも気になるところ。
雲外蒼天の言葉通りこれからも波乱万丈の人生なんでしょうけど、きっといつか真っ青な空を望むことができると信じたいです。



>何かを美味しい、と思えれば生きることができる。たとえどれほど絶望的な状況にあったとしても、そう思えればひとは生きていける。

>「口から摂るものだけが、人の身体を作るのです」

>「料理は、料理人の器量次第」


印象に残った言葉をあげておきます。



著者は漫画の原作者から小説家になったという経歴の持ち主。
これから追いかけていきたいです。