はぴの本棚

2003年からの読書日記

歳月作者: 茨木のり子出版社/メーカー: 花神社発売日: 2007/02/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (27件) を見る

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茨木のり子さんが亡くなった後、出版された詩集。
最愛の夫・三浦安信さんが亡くなった1975年から書きためていた詩が三十九篇収められています。

生前に出版されなかったのは一種のラブレターのようなものなので、ちょっと照れくさいのだという答えだったそう。


もちろん詩なんですが、本当にラブレター!熱くて深い愛情が伝わってきます。
でも読んでいて恥ずかしいとか照れくさいという感じは全くありませんでした。
詩だからこそ言葉が一層研ぎ澄まされて心に響いてきます。
夫婦で自宅前で写っているモノクロの写真もとっても素敵でした。


思いがけず涙が出てしまった詩を引用させてもらいます。



「誤算」

 あら 雨
 あじさいがきれい
 このブラウス似合います?
 お茶が濃すぎるぞ
 キャッ! ごきぶり
 あの返事は書いておいてくれたか
 レコードはもう少し低くして 隣の赤ちゃん目をさますわ


とりとめもない会話
気にもとめなかった なにげなさ
それらが日々の暮らしのなかで
どれほどの輝きと安らぎを帯びていたか


応答ものんびりした返事も返ってこない
一人言をつぶやくとき
自問自答の頼りなさに
おもわず顔を掩ってしまう
かつて
ふんだんに持っていた
とりとめなさの よろしさ
それらに
一顧だに与えてこなかった迂闊さ




夫婦なら誰でも交わしていそうな何気ない日常の会話・・・だからこそ胸に響くのかもしれません。
著者の夫への愛情が痛いほど伝わってきます。
他の詩でも感じましたが、亡くなってしまったからこそ思い出は鮮やかになり、なおさら思いが募るということ。



私自身は結婚してもうすぐ10年。
今では当たり前のように側にいると思っている夫だけれど本当はそうじゃないんですよね。
夫婦のことを改めて考えるきっかけを与えてもらいました。