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2003年からの読書日記

悼む人作者: 天童荒太出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2008/11/30メディア: 単行本購入: 9人 クリック: 104回この商品を含むブログ (171件) を見る

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図書館でずいぶん前に予約していたもの、忘れた頃に順番が回ってきました。
天童荒太さんの作品はずっと読みたいと思い続けてきましたが、重い、暗い、救いがないというイメージがあり(笑)機会があってもなかなか手に取ることができませんでした。


読みやすい文章、だけどぐいぐい惹き込まれる力があるのでずっしり心に響きます。
たしかに重い、暗いです・・・正直疲れます。
気力を使う読書というのでしょうか?消耗するというのが気持ちに近い感じです。
でも救いがないわけじゃなく希望の光もあるのでホッとしました。



蒔野抗太郎、坂築巡子、奈義倖世の三人の章が交代で(Ⅰ〜Ⅲ)つながり物語が進んでいきます。
読んでいくうちに悼む人として日本を旅している静人の姿がだんだんはっきりと見えてきます。

章に登場する三人はもちろん、静人に出会った多くの人々も死についてそして今生きている自分について深く考えられるようになるんだと思います。



静人が悼むために聞く死者に関する情報はとてもシンプル。


誰に愛されていたか、誰を愛していたか、どんなことをして、人に感謝されたことがあったか。


これは誰でも探せば何か一つはあるはずですよね。
その人についてよい面を探して覚えておく、心に刻んでおくというのはとてもいいと思いました。


その一方、病気で亡くなった人、事故で亡くなった人、事件の被害者、加害者(静人は同じ被害者を三回悼んだら加害者も悼むことができるというルールにしている)など差別することなく悼むというのは考えさせられました。
頭では分かっていてもやっぱり被害者と加害者を同じように悼むのは違うんじゃないかと思ってしまう気持ちが出てしまう私。


悼む人が実際にいたらどう感じるんだろう?やっぱり宗教関係だと決めつけて一歩ひいた目で見てしまうような気がします。
縁もゆかりもない他人に悼んでもらっても・・・と固い頭で思うのかもしれない。
でもやっぱりこういう風に誰かに悼んでもらえるのはうれしいかもしれません。



淡々と悼む行為を続けていると思っていた静人ですが、一人の青年で聖人君子じゃないところもリアルでよかったです。
常に悩み、自問自答しながら旅をしていたことも分かってきます。
自分で選んだ道だとはいえすごく苦しい生き方だと思います。



そして結末。
予想できていたとはいえやっぱり涙が出てしまいました。
聴覚は最後まで残っている・・・静人は間に合ったと信じたいです。
きっとこれからも彼は悼む旅を続けていくんでしょうね。
静人に共感する人々の輪が少しずつ広がっていき悼む人が増えるかもしれない。
でも、本当は悼む人がいなくてもいい世界が一番なんですよね。
一人ひとりが死者を大切に思い、自分や他人の生を大切に思える世界になって欲しいです。



謝辞に書かれてありましたが、7年間悼む人と向き合ってきた天童さん。
小説に取り組む真摯な姿勢が静人と重なるような気がしてしまいます。
参考資料もたくさん、小説が完成するまでかなりしんどかったはず。
身を削るようにして作品と向き合い作家活動をされているのが伝わってきました。


読者も自然と背筋を正して向き合わないといけない気持ちにさせられます。
天童さんの作品は読むのにすごくエネルギーがいるのは予想できていたんですが、読んで後悔はしないと実感しました。
これからも心に響く作品を生み続けていってほしいと思います。
体力気力が充実している時を狙って他の作品も少しずつ読んでいきたいです。


静人日記

静人日記

こんな本も出ているんですね・・・いつか『悼む人』を再読する機会があれば合わせて読みたいです。