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2003年からの読書日記

細雪 (中公文庫)作者: 谷崎潤一郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1983/01/10メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 32回この商品を含むブログ (82件) を見る

ずっと前から読みたいと思っていました。
谷崎潤一郎作品です。


私は一冊にまとまっている中公文庫版を図書館で借りたのですが、新潮文庫は分冊(上・中・下)になってます。
持ち運びに便利なのは新潮でしょうね。
かなりの厚さなので(本文929ページ)圧倒されましたが、読みやすくて楽しめました。


長女鶴子、次女幸子、三女雪子、四女妙子の姉妹の物語です。
雪子のお見合いを軸に幸子が語っていくのですが、とても面白いです。
これが長女の立場だったり三女、四女が語るとまた違った物語になりそうですね。


雪子の縁談がなかなかまとまらないので私までやきもき(笑)
大阪の豪商の家に育ったということもあり、相手への条件が厳しいのが一番の原因なんでしょうが、しまいにはお見合い自体が減ってしまいこちら側の条件が少しずつ妥協されていく様子がなんともいえずおかしかったです。



この作品(上巻)が初めて発表されたのは昭和18年

まだまだ家柄とか、親譲りの財産とか、肩書だけの教養を重視する時代でしょうに、妙子の結婚相手に対する三つの条件は雪子とは正反対ですごく実利主義なのも興味深かったです。

>強健なる肉体の持ち主であることと、腕に職を持っていることと、自分を心から愛してくれ、自分のためには生命をも捧げる熱情を有していること、この三つの条件にさえ叶う人なら、ほかのことは問わない、


これって案外女性が望む普遍的な条件じゃないかと思いました。



「昇降機」「脚気」など時代を感じさせる言葉も今読むとかえって新鮮な気がしました。
電車内でコムパクトを開けて化粧直しをする場面にはちょっと驚き。
現代ではマナー違反と言われている(でももう当たり前な光景になりつつあるかな)こともこの頃からしていたんですね。

戦争の影が時折ちらつくものの外国との行き来もまだけっこうある感じ。
外国人の隣人や友人もおり、家族ぐるみの温かい交流もあったりしてまだまだ平和なのも意外に思いました。



船場言葉も物語にぴったりで味がありますね。
こいさん」は「小娘(こいと)さん」の略とのこと。
大阪で末の娘を呼ぶ時に使うそうですが、今もこう呼ばれることがあるのかな?
愛嬌のあるかわいらしい響きだと思いました。



そして四季折々の描写も素敵でした。
やっぱり一番は花見の場面!
着物姿の美人姉妹が桜を愛でる姿は絵になるでしょうね。
原作もよかったけれどこういう場面は特に舞台やDVDで見てみたいです。

京都の名所をあちこち巡って花見をするいうのはとても贅沢でうらやましい限り。
平安神宮が最も見事な桜と書かれていたのは今でもそうなのかしら?
私も一度行ってみたくなりました。



幸子の夫の貞之助、女中のお春、縁談のお世話をする井谷など姉妹以外の登場人物も魅力的でした。
特に貞之助は理解があっていざという時は助けてくれるとても優しい旦那さまだと思いました。


それにしても著者は女性のことをこんなによく理解して描けることに驚きました。
女性の考え方、細やかな心情の動き、姉妹の微妙な関係など・・・どうして男性がここまで分かるのか?というくらい。
でも、逆に男性だからこそきっと見える部分があるんでしょうね。



細雪』長編ですが、時間をかけて読んだ以上のものがきっと得られるはず。
未読の人にはぜひ挑戦してもらいたい名作だと思います。