はぴの本棚

2003年からの読書日記

アンネ・フランクの記憶 (角川文庫)作者: 小川洋子出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 1998/11/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 15回この商品を含むブログ (28件) を見る

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1995年8月に発売された本書。

>一番最初に言葉で自分を表現したのは、日記だった。その方法を教えてくれたのが『アンネの日記』なのだ。

>けれどわたしが本当に知りたいのは、一人の人間が死ぬ、殺される、ということについてだ。歴史や国家や民族を通してではなく、一人の人間を通して真実を見たいのだ。


アンネの日記を読み、作家になった小川洋子さんがアンネの足跡をたどります。

フランクフルトの生家、隠れ家で今はアンネ・フランク・ハウスとして一般公開されている博物館、アウシュヴィッツにも訪れます。

親友のヨーピー(ジャクリーヌさん)やミープさんと会う場面ではただただ感動。小川さん達と一緒に旅をさせてもらった気分になりました。


まず訪れたアンネ・フランク・ハウスの本棚の話が印象的でした。


>事情を知っていても、後ろに扉が隠れているとは信じられなかった。


>八人の人間をナチスから守る、命の本棚を作った。

これを製作したベップの父親のことが触れられますが、娘の働いている会社の上司の家族達を救うため(断ることもできたはずなのに)危険を知りながら協力するのはなかなかできない気がします。


結局連行されることになるアンネ達ですが、色々な人達に守られていたのだと改めて思いました。


ジャクリーヌさんとの出会いも印象的だったんですが、やっぱり興味深かったのは当時85歳になっていたミープさんと会う場面。
会うまでに何度も断られていたそうですが、実現して本当によかった!


>「はい。日記はアンネの命そのものでした」


>「アンネが帰ってくると、信じてましたから。無断で読むわけにはいきません。彼女にも人格があります」


>「人間として当然のことをしただけです。あの時代、あの状況に置かれた時、なさねばならないことをしたのです。時代が私にやらせたのです」


>「〜私は自分が考えるところの当たり前の行動をしただけです」


11歳でウィーンからオランダへ養女として出されたミープさん。
アンネの父のオットーの会社に雇われ、家族達とも親しくなったこと。
危険な情勢の中、ヤンさんと結婚する時に見逃してくれた市役所の係官のこと。
戦後40歳で妊娠、初めての子パウルを出産した時のことなど・・・
アンネ達8人の支援をしていただけでも大変なのに、自宅にも大学生をかくまっていたのには驚きました。


ご本人は、当たり前の行動をしただけだと何度もおっしゃるんですが、やっぱりそれだけではないと思います。
アンネの日記』を読んだ時以上に意志の強い人だと感じました。

だからこそ戦後久々にココアの香りをかぎ涙が止まらなくなってしまったというエピソードには胸がいっぱいになってしまいました。

ミープさんの本を読みたい気持ちが一層高まりました。



そしてアウシュヴィッツ強制収容所
恥ずかしながら私はこの場所がポーランドにあることさえ知りませんでした。

膨大な数のトランク、靴、時計、子ども用品、髪の毛など同じものを集めた収奪品のコーナー・・・
徹底的に人格を奪おうとするやり方に嫌悪感でいっぱいになってしまいました。


>ただ単に人を殺すだけでなく、人間の存在を根こそぎ奪い去っていったナチのやり方が、


同じ人間なのに・・・ひとたび戦争が起こるとこれだけ残酷になれる異常さ、恐ろしさに震える思いがしました。

アンネ達をはじめ、亡くなっていった多くの人々の無念、悲しみがいまだに残っている場所。
どれだけ時間が過ぎ去ろうとも忘れてはいけないと思います。

そして、ここは戦争の悲惨さを改めて感じ、二度と繰り返してはならないという強い思いを持つことができる、後世の人々に伝えることのできる貴重な場所の一つだとも思いました。



アンネの日記』訳者の深町眞理子さんの解説も読み応えがありました。


日本における『アンネの日記』について書かれている部分、


>良書だから、読めばもちろん、それなりの感銘は受ける。だが、歳月とともに、右の小川さんのようなみずみずしい受けとめかたはいつしか色褪せ、あとはただ、良書という認識と、そのシンボルとしてのアンネの、ほとんど記号化されたイメージだけが残る。


これだけ有名になってしまった作品だからというのもあるでしょうが、教科書的に”良書”として読まれる傾向が強いという指摘には同感でした。


逆にこのイメージに反発する人々(訳者もかつてそうだったとのこと)


>『日記』のそういう記号化されたイメージを”クサい”と感じ、敬遠する人びとである。


考えてみるとこれまで読まなかった私はかなりこちらの人々に近いように思いました。


>『日記』が少女用の読み物だというのは本末転倒、少女のみずみずしい感性があればこそ、アンネの記述の真に意味するところを、そのまま、すなおに受けとめられるのだ。


みずみずしい感性があればこそ・・・
最初は中学生くらいの年齢で『アンネの日記』を読んでおけばよかったと残念に思っていたけれど、結局いつ読んでもいいんですよね。


子どもの頃のように素直に読めたかといえばちょっと不安ですが、アンネや小川さんのこの本から色々なことを感じ、考えることができました。受け取るものは多かったし、今読んでよかったと思います。



最後に参考文献もたくさん載せてあります。

読もうと思っている『思い出のアンネ・フランク』ミープ・ヒース著、以前からチェックしていた『夜と霧』V.E.フランクル著の他にも気になるものが色々。


『アンネの童話』アンネ・フランク著 中川李枝子訳
『アンネとヨーピー わが友アンネと思春期をともに生きて』ジャクリーヌ”ヨーピー”・ファン・マールセン著
アンネ・フランク最後の七ヵ月』ウィリー・リントヴェル著
『私のアンネ=フランク』松谷みよこ著


アンネの日記』から小川さんの本、ミープさんの本、その先まで・・・じっくり深い読書ができることをうれしく思います。