はぴの本棚

2003年からの読書日記

春のオルガン (新潮文庫)作者: 湯本香樹実出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/06/30メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (51件) を見る

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春になったら読もうと決めていたまま数年が過ぎ・・・今回やっと読めました。

最初春の暖かくさわやかなイメージを想像して読み始めたんですが、なんだか違う。
これはそんなに甘いものではないと気づき、気持ちを切り替えて読み進めました。


どちらかというと花冷え、花曇りといった感じが近いのでしょうか?
まだ寒さが残っていて、霞がかかっているようなぼんやりした春なのかもしれません。


小学校を卒業した春休み、トモミが弟のテツと過ごした日々が描かれています。

子ども時代から卒業して大人の入り口に差し掛かったトモミ。
体はもちろん外側からはよく見えない精神も大きな変化を迎えています。
両親の不和、近所とのトラブル、野良猫たちにえさをやるおばさん、不審者との遭遇・・・

思春期特有の危うい感じや戸惑いがとてもリアルで読んでいてヒリヒリするくらいでした。
自分も当時を思い出すような気持ちで読みました。


家出したトモミとテツのところに祖父が訪ねてきて静かに語る場面、後半トモミが力の限り叫ぶ場面には思わず涙がこぼれてしまいました。


危うい時期が何度もあったけれど祖父の存在、野良猫にえさをやるおばさんとの出会いがあって救われたトモミ。
本当によかった!

もちろんテツの存在も大きかったでしょうね。


きっちり解決している問題はないけれど、読後感は不思議と明るくすっきりした気持ちになりました。
やっとぽかぽかの春を感じることができました。


湯本さんの小説は『夏の庭』『ポプラの秋』『西日の町』も読みましたが、どれも共通しているのは死を扱っていること。

決して大げさでないのに自然に心に訴えかけてくるところがとても好きです。


角田光代さんの解説もよかったです。


湯本さんの作品はこれでほぼ読んだことになります。

一番のお気に入りは『ポプラの秋』ですが、読んだ作品どれも思い出に残っています。

絵本や児童書以外で未読なのは『わたしのおじさん』、映画についてのエッセイ『ボーイズ・イン・ザ・シネマ』のみ。

寡作で良質な作品を出される湯本さんですが、ファンとしての本音はやっぱりもっと読みたいところ。

「夏」「秋」「春」ときたのでいつか「冬」も出して欲しいですね。
それまでは未読のものを少しずつ読んだり再読を続けながら待っていたいと思います。