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2003年からの読書日記

二十四の瞳 (新潮文庫)作者: 壺井栄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/04メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 35回この商品を含むブログ (31件) を見る

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教科書で習った覚えがなんとなくありますが、全文をじっくり読んだのは初めて。
小豆島の二十四の瞳映画村や岬の分教場にはだいぶ前に訪れたのですが、その当時はあまり心に残らなかった記憶があります。
ちゃんと原作を読んだり、映画を観てたら思いが違っていたはず。残念。

1回目はさらっと、2回目は登場人物(子ども達)を書き出してゆっくり読みました。
昭和3年、学校を出たばかりの大石先生は岬の分教場に赴任してきます。
当時は珍しかった自転車での通勤、洋服を着たモダンな先生という印象は、最初村の人達をよそよそしくさせますが、だんだん親しくなっていく過程もいいし、担当する1年生の子ども達12名それぞれがとてもかわいい。

いたずらで作った落とし穴で怪我をしてしまった大石先生の家を訪ねて子ども達が片道8キロもの道を歩いて行く場面が大好きです。

結局その怪我がもとで岬に通えなくなり辞めることになった大石先生ですが、4年後再び本校で教えることになり、子ども達と再会することができます。
しかし、着実に戦争の影は忍び寄ってきていて・・・激動の時代が始まります。

戦争で亡くなってしまった多くの人達。教え子たちも例外ではなく、5名いた男子は3名が戦死。生き残って帰っても失明してしまった者もいました。
7名の女子は病死や、行方知れずの者もいたりで、戦争の影響を感じさせます。
大石先生も例外ではなく、夫や母、一番下の子も亡くして辛い状況です。

最後、教職に戻った先生を歓迎して同窓会をする場面が心に残りました。
松江が先生からもらった弁当箱をずっと大切に持っていたエピソードや、磯吉が写真を指差すところはもう本当にじーんとしてしまいました。

戦前から戦中、戦後と大変な時代を過ごした人達の物語というと、どうしても重くて暗いイメージを持つけれど、なぜかあまりそういうことを感じさせないのが不思議でした。
全体を通してやさしい語り口なのもあるのかな?
ユニークないくつかの場面には微笑んでしまったり、戦争をちょっと皮肉った場面ではうまいなと思ったり、小豆島の素朴でのあったかい雰囲気や方言も味わいがあってよかったです。
方言には注がありましたが、私は近いのでほぼ分かるのもうれしく思いました。

この作品は戦争反対!と声高に訴えるものではないんですが、だからこそ反戦や平和への思いが静かに伝わってくるような気がしました。
大切な人やものをたくさん失ってしまう戦争・・・
人々の心も壊れるし、生き残った人でさえ傷つかないものはいないこと。

世界には今でも戦争をしている国があることを思う時、悲しい気持ちになります。
壺井さんも生きていらっしゃったら、きっと悲しく思うんでしょうね。
この本がもっとたくさんの人達に読まれるのを望みます。